上 下
49 / 324

祓 2

しおりを挟む
 「見せろ。」 

  俺は自分の目に意識を集中させ、そこへ撃ち込むように言葉を放った。
 刻印と目の周りが熱い。 
 今見ている景色の上に少し重なるように、頭の中にもう1つの景色が現れた。 

 うっ・・・・酔いそう。  
 不器用な素人が操縦しているドローンの映像をみているみたいだ。 
 世界がグラグラ揺れる。 
 ここから意識を集中させて移動って、結構厳しいぞ。 

 「目をつぶってみるといい。祓の景色が見やすくなる。」 

 なかば目を回しながら、久遠くおんのアドバイスに従って目をつぶってみる。 
 まぶたが下りるのに合わせ、頭の中に映っていたもう1つの景色が、スクリーンの位置を下げるように目の前におりてきた。
 さっき久遠が目を伏せ気味にしていたのはこのためだったのか。 
 これなら集中できる。 
 しばらくすると、揺れていた景色がようやく安定した。 

 「移動する対象のものを指さすと、イメージが絞り込める。」 

 景色の中に自分が立っている姿をイメージして・・・・・。 
 指で胸のあたりを指し示してから、打ち込むように言霊を唱える。 

 「わたれ。」 

 風が吹き抜けたように感じ目を開けると、俺は小川の向こう側へと移動していた。 
 隣をみると肩にゆいを乗せた光弘みつひろが、自分たちの身体を見回し確認していたが、俺に気づいて嬉しそうに笑顔をみせた。 

 光弘、癒を乗せたまま移動したのか。 
 前から器用な奴だとは思ってたけど・・・・・凄いな。 
 俺、自分の身体に集中するだけでも結構ギリギリな感じだったぞ。 

 バシャーンッ! 

 俺が感心しながら光弘に微笑み返していると、すぐ横で大きな水しぶきが上がった。 
 驚いてそちらを見れば、小川の中でしょうがひっくり返っている。 
 
 「くっそー!川の中にいるカニみたいのが気になっちまったー。」 

 勝は悔しそうに顔をしかめ、バシャバシャ水を蹴り上げながら川から上がってきた。 
 見慣れない世界の中、いつもと全く変わらない勝の姿に俺も光弘も思わず笑顔になる。 

  「いや、お前ら笑いすぎっしょ。おい!都古!お前までそっちで笑ってんじゃねーよ。見えてんだかんな!・・・・くっそー!忘れんなよ!」 

 そう言って都古を指さし、叫び声を上げている勝だったが、言っている事とは裏腹に、自分も思いっきり笑ってしまっている。 
 むこうで笑っていた都古が、こちらへ移動してきて、騒いでいる勝の顔に水をかけた。
 そのまま光弘の後ろへ回り込んで逃げている。

 「やったな!待てこら!」

 都古と勝が光弘の周りをグルグル追いかけっこしていると、真ん中に立ってキョトンとしていた光弘の姿が、火を消すようにフッと消えてしまった。

 光弘!?
 どこいったんだ!?

 焦って見回すがどこにも見当たらない。
 不安になって勝と都古に目をやると、2人は俺の後ろへ驚いたように視線を向けていた。

 後ろに、なにかあるのか・・・・・?
 俺は恐る恐る振り返ってみた。

 ピューッ・・・・・。

 「プッ!」

 勝と都古が水を浴びた俺をみて、噴き出した。

「やるな。光弘。」 
「まさか真也しんやを出し抜くとはな。」

 俺のすぐ後ろに、いたずらっ子の笑みを浮かべた光弘が、手をニギニギしながら立っていた。

 ウッソ!
 今俺に水かけたの、光弘なのか!?
 すっごい嬉しそうに笑ってるけど・・・・・・。

 俺は驚いたのと同時に、なんだか凄く嬉しくなった。
 勝に巻き込まれた光弘が一緒に悪ふざけしていることはあったけど、こんな風に自分から仕掛けてきたのは、初めてな気がする。

 「み~つひ~ろく~ん?」

 俺は満面の笑みで光弘の肩に腕を回した。
 癒が慌てて光弘の頭の上に飛び移る。

 「お返しだー!」

 俺はそう言って、川の淵まで光弘を連れて行くと、光弘の顔に向かって思い切り水をかけた。
 光弘は嬉しそうに水をかけ返してくる。

 「なんだよ。俺らも混ぜろってーのっ!」

 勝と都古も混ざっての盛大な水の掛け合いが始まった。
 

 「白妙・・・・・。」
 「あぁ・・・・・気づいている。」

 水をかけ合ってはしゃいでいる俺たちを見つめながら、久遠と白妙が目を細めていた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...