双凶の妖鬼 蒼 ～再逢～

準備はいらない

　光弘みつひろの瞳に波紋のように喜びの色が弾け、広がっていく。

　「これを持たないで冥府に渡ってはいけない。精神が淀み、君きみのままで生きてはいられなくなる。」

　海神が真剣な眼差しで光弘みつひろに念を押す。
　光弘みつひろは深くうなずくと、改めて二人に礼を言った。

　「力になってくれて、本当にありがとう。俺一人じゃ、彼を守ることなんてできなかった。」

　「そんなことはない。君きみだけなのだから。彼の心を守ってやれるのは。」

　「海神わだつみ･･････？」

　海神わだつみの声は励ますというより哀しみを帯びているように聴こえたものだから、光弘みつひろは不思議そうに名を呼んだ。

　蒼あおがそんな二人のやり取りに柔らかく目を細め、視線を送る。

　「光弘みつひろ。君きみはどうやら、こいつのことが大切で仕方ないようだね。」

　蒼あおの言葉に、光弘みつひろが寂しげに微笑みながらはっきりとうずいた。

　事実だけを上げ連ねてしまえば、確かに光弘みつひろは蒼や海神わだつみ、そして黒のような強い力を持っているわけではない。
　そんな彼がただ一方的に黒から守られているように感じてしまうのも無理はなかった。

　光弘みつひろは自分が黒くろに必要とされている自信も理由も見つけられず、心の中で独りもがいているのだ。

　健気に微笑みを見せる光弘みつひろの頭を撫でようと、思わず伸ばした蒼あおだったが、その手は小さな影にあっけなく遮られてしまった。

　「余計なことをする必要はない。ここでこれ以上の騒ぎは好ましくない。早く場所を変えたい。」

　相変わらず生意気を絵に描いたように顎をくッと上向けた癒ゆいが、不機嫌そうに口にする。

　「短気な奴だな。それに優しくないね。ボクにだって受け入れるための用意があるかもしれないとは思ってくれないのかな。」

　「蒼あお・・・。お前のことは少し耳にしている。有能過ぎる部下がいるんだ。そんな些細なことで私ごときがお前を心配する必要はないだろう。」

　蒼あおは目を細め刺すように癒ゆいを見つめた。

　癒ゆいは神妖であるにもかかわらず、冥府のことに詳し過ぎる。
　それに、本調子ではないのだろう。
　制御しきれず時折無意識のうちににじみ出そうになる妖力は、蒼あおが探れる範囲だけでも桁外れなものだった。

　だが、もし蒼あおの考えが的を射ているのだとすれば、そのことをここで口にしてしまうのは自殺行為といえるほど危険な行いだ。

　「君きみのような生まれて間もない神妖にまで知っていてもらえたなんて光栄の極みだね。お望み通り、さっさとボクの館へ案内しよう。」

　蒼あおは気を失ってぐったりしている黒を柔らかく肩に担ぐと、三人を連れ自らの館へと移動した。