252 / 266
【箸休め:番外編】龍粋 11
しおりを挟む
寝床にしても、一緒では窮屈であろうときちんと別に用意してあるのだが。
蒼海は毎晩必ず碧の布団へ潜り込んできて、酷く可愛らしい言葉を、彼女の透き通るような白くやわらかい耳に、優しく響かせてくる。
「姉さん、眠れない?」
「あぁ。」
実のところ、碧自身にはさほど休息は必要ない。
大きな力を使いでもしなければ、定期的な睡眠や食事といったものを必要とせずに過ごすことが可能なのだ。
「大丈夫。姉さんが寝るまでボク、こうしてる。」
そんなことを言って碧の手を握り満面の笑みで微笑んでくるのだが、いつだって蒼海は自分の方があっという間に眠りこけてしまう。
ふんわりとした小さな手で碧の指をキュッと握りしめ、安心しきった表情で眠りにつく蒼海を見ていると、胸の内が柔らかい気持ちでたちまちいっぱいに膨らんでいく。
結局のところ蒼海の目論見は的外れではなかった。
まだ頼りないほんの小さな手の温もりは、休息を必要としないはずの彼女を優しい眠りへと心地よく引き寄せ、誘うことができたのだ。
ある時。
いつものように店でゆったりとくつろぎながら、落花の殻を剥く手伝いなどしていたはずの蒼海が、突然姿を消した。
碧は驚いたが、蒼海という子は日ごろ無邪気にふるまってはいてもが、内情は大人びていて実に用心深く、無茶なことをするようなうかつな者ではない。
そのため、慌てることなく慎重に気配を探り始める。
すると一つの息をつく間もなく、蒼海はすぐに見つかった。
なんのことはない。
蒼海は彼にしては珍しく、碧に声をかけることなく店を出て、石段通りの大階段のあたりへ足を運んでいるだけのことだった。
だが、妙に胸が騒ぐ。
すぐ目と鼻の先にいるものをあまりにも過保護が過ぎるだろうか。
そう思いながらも、碧の足は自然と彼の元へと向かう。
わけなく見つけ出した蒼海は、彼にしては信じがたいことに人込みにもまれ、今にも踏みつぶされる寸前であった。
心臓をぎゅっと握りつぶされそうな恐怖に駆られ、慌てて蒼海の元へ駆け寄ろうとした碧だったが、そこにある者たちの姿を見つけ、寸前のところで思いとどまった。
鼓動が大きく打つ。
蒼と海神・・・か。
主から伝え聞いている情報とはいくらか外見は異なっているようだが、これほどの美貌をもつ妖鬼が並び立つ様など、そうホイホイ見られてはたまらない。
今まさに踏みつぶされんばかりだった蒼海をふわりと抱き上げて肩に乗せ、一方の腕で酷く優し気に海神を抱き寄せる蒼。
三人の姿に碧の胸に熱いものが込み上げてくる。
やはり・・・蒼海は。
蒼海は毎晩必ず碧の布団へ潜り込んできて、酷く可愛らしい言葉を、彼女の透き通るような白くやわらかい耳に、優しく響かせてくる。
「姉さん、眠れない?」
「あぁ。」
実のところ、碧自身にはさほど休息は必要ない。
大きな力を使いでもしなければ、定期的な睡眠や食事といったものを必要とせずに過ごすことが可能なのだ。
「大丈夫。姉さんが寝るまでボク、こうしてる。」
そんなことを言って碧の手を握り満面の笑みで微笑んでくるのだが、いつだって蒼海は自分の方があっという間に眠りこけてしまう。
ふんわりとした小さな手で碧の指をキュッと握りしめ、安心しきった表情で眠りにつく蒼海を見ていると、胸の内が柔らかい気持ちでたちまちいっぱいに膨らんでいく。
結局のところ蒼海の目論見は的外れではなかった。
まだ頼りないほんの小さな手の温もりは、休息を必要としないはずの彼女を優しい眠りへと心地よく引き寄せ、誘うことができたのだ。
ある時。
いつものように店でゆったりとくつろぎながら、落花の殻を剥く手伝いなどしていたはずの蒼海が、突然姿を消した。
碧は驚いたが、蒼海という子は日ごろ無邪気にふるまってはいてもが、内情は大人びていて実に用心深く、無茶なことをするようなうかつな者ではない。
そのため、慌てることなく慎重に気配を探り始める。
すると一つの息をつく間もなく、蒼海はすぐに見つかった。
なんのことはない。
蒼海は彼にしては珍しく、碧に声をかけることなく店を出て、石段通りの大階段のあたりへ足を運んでいるだけのことだった。
だが、妙に胸が騒ぐ。
すぐ目と鼻の先にいるものをあまりにも過保護が過ぎるだろうか。
そう思いながらも、碧の足は自然と彼の元へと向かう。
わけなく見つけ出した蒼海は、彼にしては信じがたいことに人込みにもまれ、今にも踏みつぶされる寸前であった。
心臓をぎゅっと握りつぶされそうな恐怖に駆られ、慌てて蒼海の元へ駆け寄ろうとした碧だったが、そこにある者たちの姿を見つけ、寸前のところで思いとどまった。
鼓動が大きく打つ。
蒼と海神・・・か。
主から伝え聞いている情報とはいくらか外見は異なっているようだが、これほどの美貌をもつ妖鬼が並び立つ様など、そうホイホイ見られてはたまらない。
今まさに踏みつぶされんばかりだった蒼海をふわりと抱き上げて肩に乗せ、一方の腕で酷く優し気に海神を抱き寄せる蒼。
三人の姿に碧の胸に熱いものが込み上げてくる。
やはり・・・蒼海は。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
【完結】聖アベニール学園
野咲
BL
[注意!]エロばっかしです。イマラチオ、陵辱、拘束、スパンキング、射精禁止、鞭打ちなど。設定もエグいので、ダメな人は開かないでください。また、これがエロに特化した創作であり、現実ではあり得ないことが理解できない人は読まないでください。
学校の寄付金集めのために偉いさんの夜のお相手をさせられる特殊奨学生のお話。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる