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【箸休め:番外編】龍粋 6
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龍粋の必死な様子に、黒はわずかな合間目を見開き、それからクスリと笑った。
「大丈夫だよ。彼はあなたが考えているよりも、ずっと強い者だから。・・・それに、今はいつだって蒼の奴が彼を満たしている。むしろ少し力を抜いてやった方がいいくらいにね。」
黒は肩をすくめ、片手の掌を上向けた。
「名づけの回廊を使えば、痛みもなにも感じることはない。あなたが少しくらい力を分けてもらったところで、大したことにはならないよ。」
龍粋はためらい、考え込んでいる。
黒は穏やかな様子で龍粋を見つめたまま、ゆったりと待った。
しばらくそうしていた龍粋は、ふとあることを思いつき、思わず笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いや。もしそうして生まれ変わるのだとしたら、まるで私は海神と蒼の妖鬼・・・二人の子供のようだと思ってね。」
「嫌?」
「もちろん嫌なわけはない。とても嬉しいよ。けれど、そういう事ならばせっかくだから、嘘偽り無しに二人の子供として生きてみたかった、かな。」
そう言って笑い声を立てる龍粋とは違い、黒は大真面目な顔で考え込んでしまった。
「そうだね。」
「?」
独り言のようにつぶやいた黒は、怪訝な様子の龍粋に笑顔を見せる。
「大丈夫。そう遠くないうちにあなたはきっとまた、二人に会える。」
意味深な言葉に首をかしげている龍粋の魂を腕の中に丁寧に抱き寄せ、黒は冥府へ移った。
冥府は暗がりばかりの暗黒の地であると思っていた龍粋だったが、実際には少し違ったようだ。
確かに、上空から見下ろす冥府の情景はおどろおどろしい気配を重く淀ませている。
だが全てではない。
巨大な光の柱が立ち上り辺りを明るく照らしている一帯だけは、巨大な街が広がり非常に煌びやかだった。
「あれは照射殿だ。照射殿周辺は蒼のやつが仕切っているし、少しなら僕の知った者もいる。」
黒は照射殿と呼んだ荘厳な建物の、人気のない場所へそっと降り立った。
滑らかで上質な手触りの黒い薄布をどこからか一枚するりと取り出すと、優雅な仕草でそれを肩のあたりに巻き付け口元を隠す。
恐らく何らかの術がかけられているのだろう。
黒の気配がごく小さく抑えられたように感じる。
懐に龍粋を抱き、黒は長い石段が続く街の入口へと移動した。
たくさんの妖鬼が行きかうこの場所は、神妖界の祭のような活気にあふれており、非常に楽し気だ。
「本当は、あなたを手放す気はなかったんだけど。」
「何か言った?」
喧騒の中、頭上を揺らす小さな声の気配を感じ、龍粋が黒に問いかける。
黒は袂を優しく抑えると、自嘲気味に小さく笑った。
「大丈夫だよ。彼はあなたが考えているよりも、ずっと強い者だから。・・・それに、今はいつだって蒼の奴が彼を満たしている。むしろ少し力を抜いてやった方がいいくらいにね。」
黒は肩をすくめ、片手の掌を上向けた。
「名づけの回廊を使えば、痛みもなにも感じることはない。あなたが少しくらい力を分けてもらったところで、大したことにはならないよ。」
龍粋はためらい、考え込んでいる。
黒は穏やかな様子で龍粋を見つめたまま、ゆったりと待った。
しばらくそうしていた龍粋は、ふとあることを思いつき、思わず笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いや。もしそうして生まれ変わるのだとしたら、まるで私は海神と蒼の妖鬼・・・二人の子供のようだと思ってね。」
「嫌?」
「もちろん嫌なわけはない。とても嬉しいよ。けれど、そういう事ならばせっかくだから、嘘偽り無しに二人の子供として生きてみたかった、かな。」
そう言って笑い声を立てる龍粋とは違い、黒は大真面目な顔で考え込んでしまった。
「そうだね。」
「?」
独り言のようにつぶやいた黒は、怪訝な様子の龍粋に笑顔を見せる。
「大丈夫。そう遠くないうちにあなたはきっとまた、二人に会える。」
意味深な言葉に首をかしげている龍粋の魂を腕の中に丁寧に抱き寄せ、黒は冥府へ移った。
冥府は暗がりばかりの暗黒の地であると思っていた龍粋だったが、実際には少し違ったようだ。
確かに、上空から見下ろす冥府の情景はおどろおどろしい気配を重く淀ませている。
だが全てではない。
巨大な光の柱が立ち上り辺りを明るく照らしている一帯だけは、巨大な街が広がり非常に煌びやかだった。
「あれは照射殿だ。照射殿周辺は蒼のやつが仕切っているし、少しなら僕の知った者もいる。」
黒は照射殿と呼んだ荘厳な建物の、人気のない場所へそっと降り立った。
滑らかで上質な手触りの黒い薄布をどこからか一枚するりと取り出すと、優雅な仕草でそれを肩のあたりに巻き付け口元を隠す。
恐らく何らかの術がかけられているのだろう。
黒の気配がごく小さく抑えられたように感じる。
懐に龍粋を抱き、黒は長い石段が続く街の入口へと移動した。
たくさんの妖鬼が行きかうこの場所は、神妖界の祭のような活気にあふれており、非常に楽し気だ。
「本当は、あなたを手放す気はなかったんだけど。」
「何か言った?」
喧騒の中、頭上を揺らす小さな声の気配を感じ、龍粋が黒に問いかける。
黒は袂を優しく抑えると、自嘲気味に小さく笑った。
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