双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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【箸休め:番外編】龍粋 5

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 「それは、どういうことかな。」

 龍粋りゅうすいの問いかけに、くろは意味深な笑顔を返す。

 「・・・あおのやつと儀式のようなものを交わしたのか。」

 独り言のようなくろのささやきに龍粋りゅうすいは耳を傾ける。

 「あなたは気づいていないようだけれど、繋がりができているんだ。」

 龍粋りゅうすいの頭の中に蘇ったのは、死の間際に落とされたあおの口づけだ。

 互いの想いは何の形も成してはいなかった。
 だが、あお龍粋りゅうすいに「惜しい」と告げたように、龍粋りゅうすいも胸を塞ぐような苦しさとともに、遅すぎたこの出会いを心のどこかで惜しんでいたのだ。

 神妖と妖鬼の契りは非常に危険だが、同じ想いを抱いた者であれば、計り知れない効果をもたらすと言われている。

 口づけだけのこととはいえ、互いを惜しむ心が確かにあったのだ。
 ましてや龍粋りゅうすいあおに双眸を捧げ、あおはそれを受けとっているのだから、不思議はないのかもしれない。

 黒は少し生意気そうに、小さく顎をあげた。

 「僕が妖鬼だっていうことに・・・。あなたは、気づいているんでしょう。」

 仕草とは裏腹に、瞳は哀し気な色を纏い、しっとりと揺れている。

 力を失ってはいても、仮面の子供の生まれ変わりであるくろが、妖鬼であることは龍粋りゅうすいにもわかっていた。

 龍粋りゅうすいは「ああ。」と短く答える。

 「嫌じゃなければ、あなたを妖鬼に転生させてあげられる。」

 「そんなことができるのか。」

 「大したことじゃない。」

 「きみは力も凄く強いみだいだし・・・。そのうえ、魂の流れを操れるなんて・・・。だとしたら、冥府は君の思い通りだ。」

 「興味はないけれど。必要があれば、そうすることもあるかもね。」

 無邪気に答える黒からは嘘も偽りも感じられず、その姿はいやみの無い自然なものだ。

 龍粋りゅうすいが少しばかり考え込んでいると、魂を探っていたくろが声を上げた。

 「驚いた。あなたは海神わだつみとも契約を交わしているのか。」

 「いや。残念だけど、それには全く思い当たるところがない。」

 これには本当にさっぱり心当たりがなかったため、龍粋りゅうすいは正直にそう口にした。

 「名づけの形跡に似たものがある。海神わだつみだけに許した呼び名があるね。」

 言われて龍粋りゅうすいはようやく一つのことに思い至る。
 「兄様」と呼びながら、ぴたりとついて歩く幼子の姿が、温かく龍粋りゅうすいの胸の内を廻った。

 「強い契約ではないけれど、少しもらい受けるくらいのことならできそうだ。」

 「もらい受ける?」

 「海神わだつみの、魂の一部をね。」

 それを耳にした龍粋りゅうすいは血相を変えた。

 「それはだめだ。そんなことをしたら、海神わだつみを傷つけてしまう。」
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