双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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【箸休め:番外編】龍粋 3

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 心細いその身体を思い切り抱きしめ返してやりたくとも、今の龍粋りゅうすいにはそうするための実体がない。

 どうすることもできず、しばらく抱かれたままでいた龍粋りゅうすいだったが、自分を包み込んでいた熱がそっと離れると、ようやく黒衣の者の顔を確かめることができた。

 青年と呼ぶにふさわしいその人物は艶やかで、顔の造形は目を見張るほど美しい。
 白く透き通るような肌が品の良い黒衣に映え、まるで蓮の花のように、うっすらとした淡い光を帯びているようにさえ見える。

 「まさか、きみは。あの子・・・なのか。」

 龍粋りゅうすいは驚き、問いかけた。

 間違いなく初めてまみえる者であったが、彼の澄み渡った夜空のような瞳には胸をドキリとさせるほど見覚えがある。

 突き抜けてしまいそうなほどどこまでもまっすぐ見つめ返してくるきらきらとした双眸は、間違いなく龍粋りゅうすいが良く知る者のものだった。

 「きみは仮面が、とれたのか。・・・よかった。」

 「・・・今、それを言うの?」

 龍粋りゅうすいの言葉に、くろはぷっと吹き出してしまった。
 魂の欠片しかなくとも、龍粋りゅうすいが嬉しそうに微笑んでくれているのがわかる。
 柔らかく胸を膨らませながら、くろは酷く安心して口を開いた。

 「あなたはいつだって、大らかだ。」

 「すまない。どうも一番に、気になってしまってね。」

 くろは幸せそうに目を細め、くすりと笑った。

 「あなたたちとはぐれてしまってから、僕ときたらうっかり死んでしまったりもしたんだけど。・・・お陰で龍粋りゅうすいにこうして会えたのだから、悪いことばかりではなかったかもしれないね。」

 最初の方は幾分芝居がかった口調だったが、後半はとても優しい声音で龍粋りゅうすいの耳に柔らかく響いた。

 ひとしきりそうしてぽつりぽつりとたわいのない会話を交わしながら互いの存在を確かめ合っていたが、ふと、くろが真面目な表情で問いかけてくる。

 「ねぇ。あなたはこのまま、消えてしまうつもりなの?」

 その表情かおは、笑っているようにもこのうえなく哀しそうにも見えて、龍粋りゅうすいの心の底をさわさわと揺らし、たまらない気持ちにさせた。

 くろの問いには答えず、少しの間の後で、龍粋りゅうすいは静かに彼にたずねてみる。

 「皆は、どうなったのだろうか。」

 「心配しないで。姿は変わってしまったけれど、誰も奪われたりはしない。」

 そう答えたくろの瞳には、誰一人触れることを許さぬような、冷たく強い意志が燃え盛っている。
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