双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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呼ばれてみれば 2 ☆挿絵は海神(現在)です

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 あおはただ大人しく海神わだつみの想いの先を見守ることしかできなくなってしまった。

 この面倒くさそうな穢れ堕ちを気持ちよく一瞬で吹き飛ばし、海神わだつみと共にさっさと家に帰るというわけにはいかなくなってしまったのだ。

 仮にあおがそうしてしまったところで、海神わだつみは決して、彼を責めたりはしないだろう。
 だが、そんな想い人だからこそ、あおは彼の想いを踏みにじってやりたくはないと、強く願わずにはいられない。

 海神の問いかけに、エビは濁った黄色い瞳から、涙をぼろぼろこぼし、聞き苦しい嗚咽を響かせることで応えた。

 黒はうっとおしそうに顔をゆがめると、「絶対に僕たちには近づくな」と言うようにエビを手で追い払うような仕草をとりながら、苦々し気に口を開く。

 「海神。そいつは水妖の類だろう?だとすればこれは、君の失態だ。僕はもう知らないよ。・・・・後始末は、君がしろ。」

 まるで「自分で食べた食器は自分で片付けろ」という程度の軽い口調で言うと、黒はエビに対する興味をすっかり失ってしまったようだ。

 自らの背の激痛も押しのけ、もはや光弘みつひろ以外はすっかりくろの意識の外である。

 海神わだつみの表情はいつも通り冷淡なものだったが、紙のごとく顔色を失っていることからも、この状況が彼にとって極めて深刻なものであることが伝わってくる。

 海神はわずかに眉間にしわをよせ、黒に「わかった」と小さくうなずいた。

 その返答に満足そうにうなずいた黒だが、気のせいだろうか・・・その表情かおには切なげな色がほんの一滴ばかり滲んでいるようにも見える。

 そのことに気づき、あおは密かに心をしおらせていた。

 あおがエビを全く脅威と感じなかったのと同様に、黒にしてみれば、エビなど蚊ほどの害もない相手であることは間違いない。

 それなのに、なによりも大切に想っている光弘みつひろにまで手を出したこのエビを、くろが寛容にも躊躇なく散らしてしまったりしなかったのは、考えてみれば極めて信じがたいことであるのだ。

 黒が極めて辛抱強く手を出さず、あえて水妖の頭目である海神わだつみに、エビの処遇を委ねたことは明白だった。

 子供じみた高慢な態度をとって誤魔化しているようだが、そこには黒なりの道理と切なすぎる彼の優しさがにじみ出てしまっているのだ。

 あおは初めて海の神殿に乗り込んだ時のことを今更ながらに思い出していた。
 海神わだつみの配下である門番を、穢れ堕ちていたとはいえあっさり霧散させてしまったことに、蒼は当時の自分のあまりの配慮のなさに呆れ果て、深く反省していたのである。
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