227 / 266
海神の羞恥 7
しおりを挟む
今となっては、蒼について海神が見逃すことなどあるわけがなかった。
例え深刻ではないとしても、蒼がわずかに懸念し始めるくらいには、妖力を使ってしまっているのだということを、海神ははっきりと気づいていたのだ。
妖力を使い過ぎれば心身ともに鉛のように疲れ果て酷く辛い想いをするし、もし使い切ってしまえば存在が儚くなることさえある。
それなのに一切の躊躇をすることもなく、海神を癒すためにさらに大量の妖力を惜しげもなく使おうとする蒼。
その、あまりにも健気過ぎる彼の姿に、海神は酷く切なくなってしまっていた。
蒼はそんな海神の切なさにはそっと見ないふりをして、白く滑らかな彼の手を愛おし気にとると、腕についた歯形を見つめた。
すぐに淡く光を帯びた手のひらをそこに当て、紫に滲む酷く痛々しい傷を綺麗に消してやる。
「蒼。・・・もう、力を使うな。」
「ダメだよ。・・・ねぇ、忘れてしまったの?君に傷をつけていいのは、ボクだけだって言ったでしょう・・・・・・。」
蒼は傷の消えた腕に、柔らかく口づけた。
「残念だけど、これのお仕置きは後だ。・・・君は少し寝て。ちゃんと起こすから。・・・もうしばらく、このままでいさせてくれる?・・・まだ君に、触れていたい。」
海神の胸の奥で、ふつりとふつりと甘い熱が湧き出してくる。
柔らかい気持ちで胸をいっぱいに膨らませながら、海神は目を細めた。
幸せでたまらないのだと・・・自分も同じなのだと、どうすれば蒼に伝えられるのか全く思いつかない。
海神は愛おしい彼の、たくましくもしなやかな胸に顔をうずめ、背に絡めた腕で、ただ強く蒼を引き寄せることしかできなかった。
だが、そんな海神の素直過ぎる酷く追い詰められた仕草こそが、何よりも甘く蒼の心を震わせるのだ。
胸の内を海神の熱でゆったりとこのうえないほど深く温められながら、蒼は彼の頭をしっかりと腕に抱いた。
海神の髪に押し付けるようにして強く口づけ、甘く清涼とした愛おしい彼の香りを胸の隅々に行き渡るまでゆっくりと含む。
海神のまどろみを妨げないよう、蒼は柔らかな声で、瑞々しい彼の耳元にそっと声をかけた。
「おやすみ。」
「・・・・・・うん。」
ああ言ってはいたが、蒼が疲れ切っている海神を自ら起こすことなど、あるわけがないのだ。
結局、一刻の後に海神が自ら重い瞼を上げるまで、幸せに包まれた二人きりの時間を妨げるものなど、なにも現れはしなかった。
例え深刻ではないとしても、蒼がわずかに懸念し始めるくらいには、妖力を使ってしまっているのだということを、海神ははっきりと気づいていたのだ。
妖力を使い過ぎれば心身ともに鉛のように疲れ果て酷く辛い想いをするし、もし使い切ってしまえば存在が儚くなることさえある。
それなのに一切の躊躇をすることもなく、海神を癒すためにさらに大量の妖力を惜しげもなく使おうとする蒼。
その、あまりにも健気過ぎる彼の姿に、海神は酷く切なくなってしまっていた。
蒼はそんな海神の切なさにはそっと見ないふりをして、白く滑らかな彼の手を愛おし気にとると、腕についた歯形を見つめた。
すぐに淡く光を帯びた手のひらをそこに当て、紫に滲む酷く痛々しい傷を綺麗に消してやる。
「蒼。・・・もう、力を使うな。」
「ダメだよ。・・・ねぇ、忘れてしまったの?君に傷をつけていいのは、ボクだけだって言ったでしょう・・・・・・。」
蒼は傷の消えた腕に、柔らかく口づけた。
「残念だけど、これのお仕置きは後だ。・・・君は少し寝て。ちゃんと起こすから。・・・もうしばらく、このままでいさせてくれる?・・・まだ君に、触れていたい。」
海神の胸の奥で、ふつりとふつりと甘い熱が湧き出してくる。
柔らかい気持ちで胸をいっぱいに膨らませながら、海神は目を細めた。
幸せでたまらないのだと・・・自分も同じなのだと、どうすれば蒼に伝えられるのか全く思いつかない。
海神は愛おしい彼の、たくましくもしなやかな胸に顔をうずめ、背に絡めた腕で、ただ強く蒼を引き寄せることしかできなかった。
だが、そんな海神の素直過ぎる酷く追い詰められた仕草こそが、何よりも甘く蒼の心を震わせるのだ。
胸の内を海神の熱でゆったりとこのうえないほど深く温められながら、蒼は彼の頭をしっかりと腕に抱いた。
海神の髪に押し付けるようにして強く口づけ、甘く清涼とした愛おしい彼の香りを胸の隅々に行き渡るまでゆっくりと含む。
海神のまどろみを妨げないよう、蒼は柔らかな声で、瑞々しい彼の耳元にそっと声をかけた。
「おやすみ。」
「・・・・・・うん。」
ああ言ってはいたが、蒼が疲れ切っている海神を自ら起こすことなど、あるわけがないのだ。
結局、一刻の後に海神が自ら重い瞼を上げるまで、幸せに包まれた二人きりの時間を妨げるものなど、なにも現れはしなかった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件
がくん
BL
あらすじ
その背中は──俺の英雄であり、悪党だった。
物分かりのいい人間を演じてきた学生、イズミケントは現実で爆発事故に巻き込まれた。
異世界で放浪していたケントを魔獣から助けたのは悪党面の傭兵マラークだった。
行き場のなかったケントはマラークについていき、新人傭兵として生きていく事を選んだがケントには魔力がなかった。
だがケントにはユニークスキルというものを持っていた。精変換──それは男の精液を取り入れた分だけ魔力に変換するという歪なスキルだった。
憧れた男のように強くなりたいと願ったケントはある日、心を殺してマラークの精液を求めた。
最初は魔力が欲しかっただけなのに──
仲間と性行為を繰り返し、歪んだ支援魔法師として生きるケント。
戦闘の天才と言われる傲慢な男マラーク。
駄犬みたいな後輩だが弓は凄腕のハーヴェイ。
3人の傭兵が日常と性行為を経て、ひとつの小隊へとなっていく物語。
初投稿、BLエロ重視にスポット置いた小説です。耐性のない方は戻って頂ければ。
趣味丸出しですが好みの合う方にはハマるかと思います。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。
天災
BL
「俺の子を孕め」
そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる