双凶の妖鬼 蒼 ～再逢～

思惑 1

　蒼あおが言いかけると、久遠くおんの父がふいに言葉を遮った。
　
　「そろそろ、私に話を返してもらおうか。･･･そいつに何を言おうと無駄骨だぞ。･･･分かっているのだろう？そいつは黒に殺された。ここにいるのは切り捨てられた残りかすだ。俺が手を加えたことで、かろうじて形をなしているだけの者なのだよ。もし術を解きそいつを解放しようものなら、どうなるかなど･･･言わずとも知れたことだろう。」

　男は宵闇よいやみへ向き直り、勝ち誇ったような力のある笑みを見せ、続きを口にする。

　「わかっただろう、宵闇よいやみ。その男、お前への思いやりがあるように見せかけて、敵の数を一人でも減らそうと、お前の存在を儚くすべく、あざとく導いているだけにすぎんのだ。･･････白妙しろたえの元には益々新しいお仲間が増えているとみえる。つまりこいつらにとって、お前はもはや完全なるお払い箱･･････。酷い話ではないか。」

　男はさも嘆かわしいという口調で蒼あおに語り掛ける。

　「･･･蒼あおよ。可哀そうなこいつをこれ以上かどわかすのはとても良くないことだ。あまりにも悪意に満ちている。いい加減うちの宵闇よいやみを虐めるのはやめてもらおうか。」

　久遠くおんの父の言葉に、蒼あおはとっさに何かを言いかけたが、男はそれを手で制しながら声を張りあげた。

　「私の術を解けば･･･こいつはこの世から灰も残さず消え失せることになる。･･･お前の言葉が真実だというのならば、なぜ宵闇よいやみを消すような真似をするのだ。お前の行いと口にしている想いとでは、あまりにも矛盾しているのではないか。」

　徐々に痛みが引いてきた宵闇よいやみは、男の言葉に再び憎々し気な怪しい光で瞳を紅く光らせた。
　それを極めて満足そうにみやると、男は蒼あおへと視線を移す。

　「それにしても、蒼あお。気の短いお前にしては随分と根気の良いことだな。白妙しろたえのために、時間と手間をかけるとは･･････。お前にとって大切な者は、海神わだつみただ一人だけと思っていたのだが。」

　男の言葉に、蒼あおは不機嫌に片方の眉をぴくりと上げた。

　「他の者に心を泳がせる余裕があるとは。海神わだつみ、お前やはり俺と共に来ないか。俺はお前以外を味わったりはしない。心も身体も泣き叫んで俺を求め続けずにはいられなくなるほど、存分にお前を愛してやれる。この世の快楽を全て与えてな。」

　「おい。」

　男の言葉が終わるか終わらないかのうちに、蒼あおの激し過ぎる怒りを孕んだ地を這う声が、重く空気を震わせた。