双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
201 / 266

三毛におまかせ 2

しおりを挟む
 「それじゃ、ちょっといってくるよ。」

 そこまで買い物に・・・といった乗りの軽い調子で笑顔で三毛に声をかけてくるあおとは対照的に、海神わだつみは傍らで礼儀正しく丁寧に頭を下げている。

 彼が頭を上げるとほぼ同時に、二人の姿はそこから消え去っていた。

 あのいい加減でマイペースな主が、追い立てられるようにして出て行った。
 この部屋に描かれた陣も普通のものではない。
 本体を留守にしてまで向き合わねばならない何かが起きているということなのだろうか。

 にわかに緊張を覚えながら部屋の戸を閉めた三毛は、周囲一帯に結界を張り巡らせた。

 三毛の結界はあおのような強靭さは持ち合わせていない。
 だが、妖鬼随一と言っても過言ではないほど、恐ろしいまでの繊細さを誇っていた。

 まず普通の者であれば、そこに結界が張られていることにすら気づけないだろう。
 あおであっても、よほど注意を払っていなければうっかり踏み込んでしまうほどなのだ。

 この結界は、いつもであれば何よりも大切な主の帰還を逃さず知るために、三毛が屋敷中に張り巡らせているものだった。

 この能力があるからこそ、彼女はあおの帰宅をいち早く知り、誰よりも先に彼の元へとかけつけられる。

 こんな結界を無節操に張り巡らせては屋敷に住む者たちの個人的な秘密に触れてしまうこともあるだろう。
 そう考え、三毛は初めのうち、結界を屋敷の外にのみ張っていた。

 だが、何度言っても三毛の自由過ぎるあるじは屋敷の中に直接移動してきてしまう。

 背を腹に変えることはできない。
 三毛にとって大切なのは、あおただ一人である。

 あお以外の者のことなどは、やはりさっさと諦めて、三毛は敷地内全域に容赦なく結界を張ることにしたのだった。

 たとえ誰かの秘密を知ろうと、自分が知らぬふりをしていればそれですむ話なのだからかまわないだろう。

 あおの可愛い従者は潔く、そして冷徹だった。

 その、主の帰りを知らせるための結界は今、あお海神わだつみの身体を納めた部屋を中心に広く張り巡らされた。

 三毛のもつ力の限りを尽くし、一層繊細にその姿を隠したまま・・・・・・。
 その範囲は町一つ分にも及び、結界に入る者は、虫一匹ですらその存在を隠しておくことはできない。

 仮に天地のどちらから侵入したとしても、赤裸々に三毛の前に正体をさらけだされることになるのだ。

 無鉄砲で投げやりだった主は、海神わだつみと出逢い変わっていた。
 海神わだつみが命の危険にさらされたあの時から・・・・・・。

 陣に組み込まれた術により、あおは三毛に繋がるしっかりとした糸を紡いでいる。
 たとえ念話ができない状況に陥ろうとも、この糸がある限り三毛とあおの連絡を断ち切ることはできないのだ。

 この二人に近づく者があれば、瞬時に主に知らせ、身を賭してでも彼の帰還までこの二人の身体を守る。

 主からの手放しの信頼に心を震わせながら、三毛は深く息を吐き意識を集中させた・・・・・・。
しおりを挟む

処理中です...