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祝言 1
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白妙と海神に見守られる中、妖月の面々の温かな祝福を受けながら、久遠と翡翠は、ささやかだが幸せに満ち満ちた祝言を挙げた・・・・・・。
二人の血縁に連なる者は、あの邪に犯された久遠の父以外いなくなってしまっていたが、宴は寂しいものにはならなかった。
白妙の呼びかけで、加具土命をはじめとした豪奢すぎる顔ぶれがそろって駆けつけてくれていたのだ。
翡翠が恐縮していると、いでたち同様、豪快な質の加具土命が、高く笑った。
「翡翠!何を小さくなっておる。主役はお前だ。堂々としていろ。・・・どれ、儂が一つお前の為に、花を添えてやろうではないか。」
加具土命は手にした大振りの盃に並々と注がれた酒を、一息に煽ってしまうと、ふっくらと艶のある唇をぺろりと舐めた。
胸の前で印を組み、天に向かい高く腕を突き上げる。
たちまち加具土命の両手の先から橙の火柱が天高くあがり、渦を巻いて神々しく巨大な龍の化身を作っていった。
海神が眉間を険しく寄せ、すかさず結界を張る。
「加具土命・・・お前はもう少し、慎みを知れ。」
海神に咎められ、加具土命は不思議そうに首をかしげる。
「おや、海神よ。・・・お主がいるからやっておるのに、なにをおかしなことを言う。お主がいるからこそ安心して、儂は存分に力を奮っているのではないか。いなければこのような真似はせん。・・・そんなこともわからぬとは、案外馬鹿な坊やなのだな。」
ニカリと太陽のような笑みを見せ、炎の形を次々と変えていく加具土命に、海神はため息をついた。
馬鹿と罵りを受けたのは、生まれて始めてのことで、あまりの衝撃に頭が揺れる。
さらには、大切な二人の友人の祝いの場を、このように軽々しく危険にさらされ、海神の心の内はとても穏やかでいられるはずもなかった。
生まれてこの方使ったことのないような罵りの言葉が、思わず口をついて出てしまう。
「このような阿呆は見たことがない。私が結界を張らねば、二人は焼け死んでいたのだ。・・・笑えん。」
初めて耳にする、海神の憎まれ口に、白妙はわずかに驚きながら、二人をなだめる。
「祝いの席だ。争うのはやめろ。」
白妙に叱られ、海神はしょんぼりと肩を落とした。
短気にはしり、二人のかけがえのない時間に影を落としてしまったのだとすぐさま気づき、あまりのなさけなさに言葉がつまる。
どうにか短く謝罪の言葉を絞り出すと、頭を冷やすため、加具土命の傍をはなれ、社の隣へと場所をうつした。
「おお!すまんな。そういうつもりではないのだ。・・・どれ、次でしまいだ!」
白妙の言葉などたいして意にも介さず、加具土命は両手を広げ、神々しく巨大な炎の鳥を形作った。
「全て大陸に伝わる吉兆の神獣の姿よ・・・・・・。久遠、翡翠。お前たちの幸せを心から嬉しく思うぞ。」
光り輝く鳳凰は、ヤマブキの光をたなびかせ、優雅に空を駆けていった。
二人の血縁に連なる者は、あの邪に犯された久遠の父以外いなくなってしまっていたが、宴は寂しいものにはならなかった。
白妙の呼びかけで、加具土命をはじめとした豪奢すぎる顔ぶれがそろって駆けつけてくれていたのだ。
翡翠が恐縮していると、いでたち同様、豪快な質の加具土命が、高く笑った。
「翡翠!何を小さくなっておる。主役はお前だ。堂々としていろ。・・・どれ、儂が一つお前の為に、花を添えてやろうではないか。」
加具土命は手にした大振りの盃に並々と注がれた酒を、一息に煽ってしまうと、ふっくらと艶のある唇をぺろりと舐めた。
胸の前で印を組み、天に向かい高く腕を突き上げる。
たちまち加具土命の両手の先から橙の火柱が天高くあがり、渦を巻いて神々しく巨大な龍の化身を作っていった。
海神が眉間を険しく寄せ、すかさず結界を張る。
「加具土命・・・お前はもう少し、慎みを知れ。」
海神に咎められ、加具土命は不思議そうに首をかしげる。
「おや、海神よ。・・・お主がいるからやっておるのに、なにをおかしなことを言う。お主がいるからこそ安心して、儂は存分に力を奮っているのではないか。いなければこのような真似はせん。・・・そんなこともわからぬとは、案外馬鹿な坊やなのだな。」
ニカリと太陽のような笑みを見せ、炎の形を次々と変えていく加具土命に、海神はため息をついた。
馬鹿と罵りを受けたのは、生まれて始めてのことで、あまりの衝撃に頭が揺れる。
さらには、大切な二人の友人の祝いの場を、このように軽々しく危険にさらされ、海神の心の内はとても穏やかでいられるはずもなかった。
生まれてこの方使ったことのないような罵りの言葉が、思わず口をついて出てしまう。
「このような阿呆は見たことがない。私が結界を張らねば、二人は焼け死んでいたのだ。・・・笑えん。」
初めて耳にする、海神の憎まれ口に、白妙はわずかに驚きながら、二人をなだめる。
「祝いの席だ。争うのはやめろ。」
白妙に叱られ、海神はしょんぼりと肩を落とした。
短気にはしり、二人のかけがえのない時間に影を落としてしまったのだとすぐさま気づき、あまりのなさけなさに言葉がつまる。
どうにか短く謝罪の言葉を絞り出すと、頭を冷やすため、加具土命の傍をはなれ、社の隣へと場所をうつした。
「おお!すまんな。そういうつもりではないのだ。・・・どれ、次でしまいだ!」
白妙の言葉などたいして意にも介さず、加具土命は両手を広げ、神々しく巨大な炎の鳥を形作った。
「全て大陸に伝わる吉兆の神獣の姿よ・・・・・・。久遠、翡翠。お前たちの幸せを心から嬉しく思うぞ。」
光り輝く鳳凰は、ヤマブキの光をたなびかせ、優雅に空を駆けていった。
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