双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
182 / 266

願望 5

しおりを挟む
 翡翠ひすい久遠くおんは、互いに顔を見合わせ、はっきりとうなずいた後、白妙と海神を真っすぐ見つめた。

 「人の世に、未練はありません。」

 「白妙しろたえ様。海神わだつみ様。どうか執護あざねとして、あなた方に仕えることをおゆるしください。」

 深々と頭をさげる二人の強い決意に、白妙は苦く微笑み、幸せな光をひっそりと宿した温かい瞳で二人を見つめた。

 「顔をあげてくれ。・・・一つだけ、きいて欲しい願いがある。・・・・・・もしお前たちが我らと共に生きることを望んでくれるのならば・・・私のことは白妙しろたえ・・・と、そう呼んでくれるか。」

 驚いて目を丸くした二人に、白妙は今度こそ心からの笑みを見せる。

 「・・・友として、生きて欲しいのだ。」

 翡翠と久遠の心の内には、白妙と海神に対する信仰にも近い気持ちが湧き上がりつつあった。
 その垣根を、白妙は一蹴したのだ。

 このうえなく幸せな笑みを見せてほほ笑む翡翠ひすいと、それを抱きしめる久遠の笑顔に、神妖である三人はまぶし気に目を細めた・・・・・・。
 
 ・・・・・・後日、正式に執護あざねの任を受けた二人は、白妙しろたえ海神わだつみの元、修練を重ねていった。

 ・・・・・・瞬く間に4年の時が流れた。
 睦まじく、互いを励まし合いながら辛い鍛錬を乗り超えていく二人が18の歳を間近にした時。
 海神わだつみをともない、いつになく真剣な表情を纏った白妙しろたえが、二人を呼ばわった。

 「お前たちに話がある。」

 ぴりりと張り詰めた二人の空気に、久遠くおん翡翠ひすいもわずかに緊張を覚える。

 「白妙しろたえ。どうしました。」

 「うむ。海神わだつみからお前たちに、大切な話があるのだ。」

 「白妙しろたえっ。」

 白妙の言葉に、海神は声を荒げ小さく頭を横に振っている。
 久遠と翡翠がいぶかしく思いながら白妙に視線を戻すと、白妙は目を細め海神を横目で軽くにらんだ後、何か閃いただろうか、にやりと意地悪く微笑んだ。

 「わかった。では、二人で分け公平に話すことにする。大切な話というのは二つ。ひとつは・・・お前たちのよわいについてだ。」

 「よわい?」

 「ああ。・・・現段階では、彼呼迷軌ひよめきはお前たちに能力の補助のみしている。年若い身体のままでは負担も大きいし、力も弱いからな。だが、18を超える歳となれば、あとはお前たち二人の希望次第。望めばその齢で時をとどめていられる。若返ることは叶わんからな。よく考えるといい。・・・二つ目は、海神わだつみから話す。」

 海神は小さくため息をつくと、あきらめて口を開いた。

 「人であればお前たちは年ごろ。・・・そろそろ、祝言を挙げてはどうだ。彼呼迷軌ひよめきが齢をとどめれば、肉体は現状を保持するため循環を繰り返す。子が腹の中で育つことができなくなる。」

 「・・・・・・祝言。」

 「久遠は問題ない。だが子を望むのならば、翡翠は時を止めたままいてはまずい。・・・子を宿すためのコトに及ぶに、問題はないが・・・。」

 「子を宿すための・・・コト?」

 「・・・・・・。」

 やはり、このような繊細な話を、男である自分がするべきではなかったのだ。

 血が噴き出すのではないかというほど真っ赤に顔を染め上げた翡翠の、うわ言のようなつぶやきを耳に入れながら、海神は口ごもり、心の中で白妙に恨み言を唱えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...