双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
181 / 266

願望 4

しおりを挟む
 神妖という生き物は恐らく、その存在の根源を基本『善』としているのだろう。

 彼らは、清らかな水のような存在でありながら、自らの信念のため清濁飲み込むことをためらわない。
 嘆きを抱える者を癒しながら、同じ手で穢れを弑し、そこに残された哀しみや憎しみを全て受け止め、人知れず苦しみもがいている・・・・・・。

 身体に負った傷を瞬きのうちに癒してしまえるほどの強い力をもつ生き物なのに、心に負った傷は生々しく血を滴らせ、いつまでも鮮烈なまま・・・。
 あがいてはさらに傷を増やし、果てしなく痛みを広げていく・・・・・・。
 
 人の身で何ができるだろう・・・ただのおごりでしかないのかもしれない・・・。
 だがそれでも久遠と翡翠は、人から神と呼ばれているこの優し過ぎる二体の神妖と心を繋いで生きたいと、強く強く願っていた。

 「白妙しろたえ様・・・・・・。」

 翡翠ひすい白妙しろたえの瞳を真っすぐに見つめ、動かない。

 「翡翠ひすい・・・・・・。大切なもののために爪を落とすほど心を尽くせるお前のことを、私は初めから愛おしく思ってしまっている。その言葉・・・この身が震えるほどに嬉しい。・・・だが、だからこそ・・・私は・・・」

 哀し気に翡翠を見つめ白妙しろたえは黙り込んでしまった・・・。
 瞳を不安げに揺らしているその理由が見つけられず、翡翠が困り果てていると、舌足らずな幼子の、不満げな声が響いた。

 「人の生はあまりに短かすぎる。置いて逝かれることにはとても耐えられないのだと、そう伝えないのか?」
 
 あまりにあけすけに過ぎるみずはの言葉に、白妙は苦い表情を見せる。

 「それならば、二人を執護あざねにすればよかろ。あれは空席のままだし、彼呼迷軌ひよめきの加護を受ければ、人の身であっても不老不死とすることが叶うのではないか?」

 「みずはっ・・・」

 白妙が咎めるように声を上げたが、みずはは何も分からないというふりをして、きょとんとした表情で首をかしげる。

 自分に鈍感で、幸せや喜びを素直に享受できない海神わだつみと白妙・・・・・・。
 二人の背中を、みずはは、物を知らないふりをして、強引にでも押し出してやりたかったのだ。

 口をつぐんだままの海神わだつみは、この策を既に頭の中で巡らせてはいた。
 白妙に二人を託したのち、落ち着けばいずれこのことを伝えるつもりでいたのだ。
 みずはの言葉を継いで、海神は静かに口を開いた。

 「白妙しろたえ。選ぶのは久遠と翡翠だ。聞かせてやるべきだろう。」

 「・・・白妙しろたえ様?」

 みずはと海神にうながされ、白妙は重いため息をついた。

 「翡翠・・・みずはと海神わだつみの言ったとおりだ。・・・私は愛する者を失うのが、恐ろしくてたまらない。」

 その言葉に、翡翠の心に昨日聞いたばかりの白妙の過去の話が、突き刺す痛みとともに思い出される。

 「執護あざねというのは、彼呼迷軌ひよめきの守り人の役を担う者のことだ。これになれば、人の身であっても不老不死となることができる。」

 白妙は苦い表情で言葉を紡ぐ。

 「・・・だが、それは人としての理を外れることを意味する。二人とも、せっかく人として生まれ落ちたものを。・・・私のわがままの為に、異形と同じように生きる道を、選ばせたくはないのだ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

[R18] ヤンデレ彼氏のお仕置き

ねねこ
BL
優しいと思って付き合った彼氏が実はヤンデレで、お仕置きされています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

短編エロ

黒弧 追兎
BL
ハードでもうらめぇ、ってなってる受けが大好きです。基本愛ゆえの鬼畜です。痛いのはしません。 前立腺責め、乳首責め、玩具責め、放置、耐久、触手、スライム、研究 治験、溺愛、機械姦、などなど気分に合わせて色々書いてます。リバは無いです。 挿入ありは.が付きます よろしければどうぞ。 リクエスト募集中!

処理中です...