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願望 4
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神妖という生き物は恐らく、その存在の根源を基本『善』としているのだろう。
彼らは、清らかな水のような存在でありながら、自らの信念のため清濁飲み込むことをためらわない。
嘆きを抱える者を癒しながら、同じ手で穢れを弑し、そこに残された哀しみや憎しみを全て受け止め、人知れず苦しみもがいている・・・・・・。
身体に負った傷を瞬きのうちに癒してしまえるほどの強い力をもつ生き物なのに、心に負った傷は生々しく血を滴らせ、いつまでも鮮烈なまま・・・。
あがいてはさらに傷を増やし、果てしなく痛みを広げていく・・・・・・。
人の身で何ができるだろう・・・ただの驕りでしかないのかもしれない・・・。
だがそれでも久遠と翡翠は、人から神と呼ばれているこの優し過ぎる二体の神妖と心を繋いで生きたいと、強く強く願っていた。
「白妙様・・・・・・。」
翡翠は白妙の瞳を真っすぐに見つめ、動かない。
「翡翠・・・・・・。大切なもののために爪を落とすほど心を尽くせるお前のことを、私は初めから愛おしく思ってしまっている。その言葉・・・この身が震えるほどに嬉しい。・・・だが、だからこそ・・・私は・・・」
哀し気に翡翠を見つめ白妙は黙り込んでしまった・・・。
瞳を不安げに揺らしているその理由が見つけられず、翡翠が困り果てていると、舌足らずな幼子の、不満げな声が響いた。
「人の生はあまりに短かすぎる。置いて逝かれることにはとても耐えられないのだと、そう伝えないのか?」
あまりにあけすけに過ぎるみずはの言葉に、白妙は苦い表情を見せる。
「それならば、二人を執護にすればよかろ。あれは空席のままだし、彼呼迷軌の加護を受ければ、人の身であっても不老不死とすることが叶うのではないか?」
「みずはっ・・・」
白妙が咎めるように声を上げたが、みずはは何も分からないというふりをして、きょとんとした表情で首をかしげる。
自分に鈍感で、幸せや喜びを素直に享受できない海神と白妙・・・・・・。
二人の背中を、みずはは、物を知らないふりをして、強引にでも押し出してやりたかったのだ。
口をつぐんだままの海神は、この策を既に頭の中で巡らせてはいた。
白妙に二人を託したのち、落ち着けばいずれこのことを伝えるつもりでいたのだ。
みずはの言葉を継いで、海神は静かに口を開いた。
「白妙。選ぶのは久遠と翡翠だ。聞かせてやるべきだろう。」
「・・・白妙様?」
みずはと海神にうながされ、白妙は重いため息をついた。
「翡翠・・・みずはと海神の言ったとおりだ。・・・私は愛する者を失うのが、恐ろしくてたまらない。」
その言葉に、翡翠の心に昨日聞いたばかりの白妙の過去の話が、突き刺す痛みとともに思い出される。
「執護というのは、彼呼迷軌の守り人の役を担う者のことだ。これになれば、人の身であっても不老不死となることができる。」
白妙は苦い表情で言葉を紡ぐ。
「・・・だが、それは人としての理を外れることを意味する。二人とも、せっかく人として生まれ落ちたものを。・・・私のわがままの為に、異形と同じように生きる道を、選ばせたくはないのだ。」
彼らは、清らかな水のような存在でありながら、自らの信念のため清濁飲み込むことをためらわない。
嘆きを抱える者を癒しながら、同じ手で穢れを弑し、そこに残された哀しみや憎しみを全て受け止め、人知れず苦しみもがいている・・・・・・。
身体に負った傷を瞬きのうちに癒してしまえるほどの強い力をもつ生き物なのに、心に負った傷は生々しく血を滴らせ、いつまでも鮮烈なまま・・・。
あがいてはさらに傷を増やし、果てしなく痛みを広げていく・・・・・・。
人の身で何ができるだろう・・・ただの驕りでしかないのかもしれない・・・。
だがそれでも久遠と翡翠は、人から神と呼ばれているこの優し過ぎる二体の神妖と心を繋いで生きたいと、強く強く願っていた。
「白妙様・・・・・・。」
翡翠は白妙の瞳を真っすぐに見つめ、動かない。
「翡翠・・・・・・。大切なもののために爪を落とすほど心を尽くせるお前のことを、私は初めから愛おしく思ってしまっている。その言葉・・・この身が震えるほどに嬉しい。・・・だが、だからこそ・・・私は・・・」
哀し気に翡翠を見つめ白妙は黙り込んでしまった・・・。
瞳を不安げに揺らしているその理由が見つけられず、翡翠が困り果てていると、舌足らずな幼子の、不満げな声が響いた。
「人の生はあまりに短かすぎる。置いて逝かれることにはとても耐えられないのだと、そう伝えないのか?」
あまりにあけすけに過ぎるみずはの言葉に、白妙は苦い表情を見せる。
「それならば、二人を執護にすればよかろ。あれは空席のままだし、彼呼迷軌の加護を受ければ、人の身であっても不老不死とすることが叶うのではないか?」
「みずはっ・・・」
白妙が咎めるように声を上げたが、みずはは何も分からないというふりをして、きょとんとした表情で首をかしげる。
自分に鈍感で、幸せや喜びを素直に享受できない海神と白妙・・・・・・。
二人の背中を、みずはは、物を知らないふりをして、強引にでも押し出してやりたかったのだ。
口をつぐんだままの海神は、この策を既に頭の中で巡らせてはいた。
白妙に二人を託したのち、落ち着けばいずれこのことを伝えるつもりでいたのだ。
みずはの言葉を継いで、海神は静かに口を開いた。
「白妙。選ぶのは久遠と翡翠だ。聞かせてやるべきだろう。」
「・・・白妙様?」
みずはと海神にうながされ、白妙は重いため息をついた。
「翡翠・・・みずはと海神の言ったとおりだ。・・・私は愛する者を失うのが、恐ろしくてたまらない。」
その言葉に、翡翠の心に昨日聞いたばかりの白妙の過去の話が、突き刺す痛みとともに思い出される。
「執護というのは、彼呼迷軌の守り人の役を担う者のことだ。これになれば、人の身であっても不老不死となることができる。」
白妙は苦い表情で言葉を紡ぐ。
「・・・だが、それは人としての理を外れることを意味する。二人とも、せっかく人として生まれ落ちたものを。・・・私のわがままの為に、異形と同じように生きる道を、選ばせたくはないのだ。」
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