双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
159 / 266

【番外編】疑われた慕情 1

しおりを挟む

 「ねえ、海神わだつみ。君は本当に真面目だよね。」

 就寝前、いつものように、文机に向かい手記を綴っていた海神わだつみは、ボクの言葉に手を止めそっと筆を置いた。

 「私は、あおが思うほど真面目ではない。・・・なぜ、そう思う。」

 「だって、君ときたら毎日欠かさずに記録を綴っているじゃないか。しかも、二冊もだ。ボクにはとてもじゃないけど、真似できない。」

 「・・・やはりお前は少し、思い違いをしている。」

 海神わだつみはほんのわずかに表情を揺らし、ボクに身体を向けながらなぜかその内の一冊をそっと下に隠してしまった。
 ボクは「おや」と思い、海神わだつみの白くしなやかな指を握りしめた。

 「ねぇ、見てもいい?」

 「・・・・・・。」

 「海神わだつみ?」

 「・・・・・・うん。」

 なかなかの長い沈黙の後、海神わだつみはようやく首を縦にした。
 上に置かれた方の手記を手に取ろうとした海神の手をそっとおさえ、ボクは隠された手記をすかさず引っ張り出す。

 「あおっ」

 ボクを止める焦った海神の声を背中に、それを開いたボクは固まった。
 頁を繰るごとに、顔に熱が上がってくる。

 「海神わだつみ・・・君ってやつは、どうしてこんなに・・・」

 肩を落とし、目を伏せ青菜が霜でしおれたようにしょんぼりとしている海神わだつみに、ボクはたまらなく嬉しくなって、勢いよく抱きついた。

 「・・・死ぬほど可愛いんだっ!」

 手記に書かれていたのは、ただの記録ではなかった。
 そこに綴られていたのは、全てボクへの彼の想いや誉め言葉のようなものばかりで・・・・・・。

 「・・・嫌わないのか。」

 「嫌う?なぜ?君はボクをこんなに嬉しがらせておいて、なぜそんなことを思うんだ。」

 海神の唇に何度も何度も強く口づけ、ボクは満面の笑みで、驚きに見開かれた彼の瞳を見つめた。

 「君は愛し方まで真面目だな。でも・・・ここに、大切なものが足りてないよ。」

 筆をとったボクは、ボクの好物が書き連ねられている端正な文字の一番初めに、彼の名を丁寧に綴った。

 「ボクのなによりの好物が書かれていなかった。これじゃ記録にならない。」

 その言葉に、困った様子で小さく肩をすくめた海神の、すらりと通った鼻先を柔らかくつまんで軽く揺らすと、彼は幸せそうに眼を細めた。

 その表情にたまらない愛おしさがこみあげてきて・・・・早速我慢のきかなくなった、堪え性のないボクは、海神を抱くため、手にしていた手記を閉じようとした。
 その時、ハラリと繰られた頁に綴られている小さな文字が目に入り、ボクは胸を締め付けられ息をつめた。

 「君は、本当に・・・不器用なやつだ・・・・・・。」

 低い声でつぶやき、手記を文机の上に静かに戻すと、そのまま海神わだつみをきつく抱きしめた・・・・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

過ちの歯車

ニューハーブ
BL
私は子供の頃から、何故か同性に気に入られ沢山の性的被害(自分は被害だと認識していない)を 経験して来ました、雑貨店のお兄さんに始まり、すすきののニューハーフ、産科医師、ラブホのオーナー 禁縛、拘束、脅迫、輪姦、射精管理、などなど同性から受け、逆らえない状況に追い込まれる、逆らえば膣鏡での強制拡張に、蝋攻め、禁縛で屋外放置、作り話ではありません!紛れもない実体験なのです 自分につながる全ての情報を消去し、名前を変え、姿を消し、逃げる事に成功しましたが、やもすると殺されていたかも知れません。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

処理中です...