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消えた久遠 5
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長きに渡り人を喰らってきた流の力は、負の妖力に支えられ、禍々しく非常に強力だ。
その威力はすさまじく、紫の閃きが身体に一つでも当たろうものならば、上半身くらい跡形もなく吹きとばされてしまうだろうほどだった。
男は顔色一つ変えることなく、四方八方から不規則に降り注ぐ紫の閃光へ向け、落ち着いた様子で雅に手首を反すと、腕で軽く払った。
その動きたった一つで、流の攻撃は一瞬のうちに祓われ、塵へと変えられてしまう。
不思議なことに、全ての攻撃が無残に散らされてしまったにもかかわらず、それを目の当たりにした流の目には、驚きも絶望も浮かんでいなかった。
流は自らの手のひらを苦々し気に見つめた。
「・・・あれだけ人を喰ろうて、この程度か。・・・・手に入らぬものならば、いっそ殺してしまおうかと我が身を汚してみたが・・・・いずれ叶わぬ願いだったな・・・・。」
「・・・流?」
独り言に近いそのつぶやきに困惑の表情を浮かべている男に向かい、流は哀しみに歪んだ笑顔を見せた。
所詮、小さな蛇の化身である自分では、龍神のような存在にはなれないのだ。
・・・・龍の化身であるみずはに叶うはずはなかった。
純粋で美しく強いこの人の傍らに似合うのは、みずは・・・・。
穢れ堕ちなど選ぶべき道ではなかった。
どんな形であれこの人の近くで生きることを望むのならば、清らかな存在であり続けなければならなかったのに・・・・・。
「私に最期を与えに来たのが、貴方で良かった。・・・・海神様・・・・・」
「流っ!」
男の名を口にしたとたん、流の全身は淡い輝きを放ち始めた。
力が抜け落ちその場に崩れ落ちていく流を抱きとめると、海神は苦悶の表情で「なぜ」と呼びかけた。
「禊を行い、罪を全て償えば、幾歳先になれど再び輪廻に戻れるものを・・・・・。」
流はただ微笑むばかりで、何も応えない。
力なく伸ばされた彼女の細い指は、海神の頬に触れることはできなかった・・・・。
その手が、なによりも焦がれる者に触れる直前・・・・。
流の身体ははじけるように砕け散り、光の粒となって完全に消え去った。
流れる水の音だけが夜の川辺に取り残され、闇の中海神の放つ淡い光が足元を照らす。
海神は呆然と跪いたまま、泥に刺さった青い簪を拾い上げた。
翡翠はその光景を夢の中のように切ない気持ちで眺めていたが、ハッとして我に返り再び必死で泥をかき分け始めた。
十度ほど土をかいたところで、翡翠の薄い肩は温かい海神の手によって、力強く包み込まれた。
「どいていなさい。・・・私がやる。・・・・これを」
そう告げると、海神は手にしていた芍薬の花を翡翠へ預けた。
海神は雪のような衣が汚れることもいとわず、瞬く間に泥を掘り返し、その外見からは想像できない、信じられないほど強力な力で、土中の棺を引きずり出してしまう。
釘で打たれた蓋をなんなくこじ開けると、海神の光に照らされた棺の中・・・・・・意識を失いぐったりとしている久遠の姿が、目に飛び込んできた。
その威力はすさまじく、紫の閃きが身体に一つでも当たろうものならば、上半身くらい跡形もなく吹きとばされてしまうだろうほどだった。
男は顔色一つ変えることなく、四方八方から不規則に降り注ぐ紫の閃光へ向け、落ち着いた様子で雅に手首を反すと、腕で軽く払った。
その動きたった一つで、流の攻撃は一瞬のうちに祓われ、塵へと変えられてしまう。
不思議なことに、全ての攻撃が無残に散らされてしまったにもかかわらず、それを目の当たりにした流の目には、驚きも絶望も浮かんでいなかった。
流は自らの手のひらを苦々し気に見つめた。
「・・・あれだけ人を喰ろうて、この程度か。・・・・手に入らぬものならば、いっそ殺してしまおうかと我が身を汚してみたが・・・・いずれ叶わぬ願いだったな・・・・。」
「・・・流?」
独り言に近いそのつぶやきに困惑の表情を浮かべている男に向かい、流は哀しみに歪んだ笑顔を見せた。
所詮、小さな蛇の化身である自分では、龍神のような存在にはなれないのだ。
・・・・龍の化身であるみずはに叶うはずはなかった。
純粋で美しく強いこの人の傍らに似合うのは、みずは・・・・。
穢れ堕ちなど選ぶべき道ではなかった。
どんな形であれこの人の近くで生きることを望むのならば、清らかな存在であり続けなければならなかったのに・・・・・。
「私に最期を与えに来たのが、貴方で良かった。・・・・海神様・・・・・」
「流っ!」
男の名を口にしたとたん、流の全身は淡い輝きを放ち始めた。
力が抜け落ちその場に崩れ落ちていく流を抱きとめると、海神は苦悶の表情で「なぜ」と呼びかけた。
「禊を行い、罪を全て償えば、幾歳先になれど再び輪廻に戻れるものを・・・・・。」
流はただ微笑むばかりで、何も応えない。
力なく伸ばされた彼女の細い指は、海神の頬に触れることはできなかった・・・・。
その手が、なによりも焦がれる者に触れる直前・・・・。
流の身体ははじけるように砕け散り、光の粒となって完全に消え去った。
流れる水の音だけが夜の川辺に取り残され、闇の中海神の放つ淡い光が足元を照らす。
海神は呆然と跪いたまま、泥に刺さった青い簪を拾い上げた。
翡翠はその光景を夢の中のように切ない気持ちで眺めていたが、ハッとして我に返り再び必死で泥をかき分け始めた。
十度ほど土をかいたところで、翡翠の薄い肩は温かい海神の手によって、力強く包み込まれた。
「どいていなさい。・・・私がやる。・・・・これを」
そう告げると、海神は手にしていた芍薬の花を翡翠へ預けた。
海神は雪のような衣が汚れることもいとわず、瞬く間に泥を掘り返し、その外見からは想像できない、信じられないほど強力な力で、土中の棺を引きずり出してしまう。
釘で打たれた蓋をなんなくこじ開けると、海神の光に照らされた棺の中・・・・・・意識を失いぐったりとしている久遠の姿が、目に飛び込んできた。
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