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白妙の苦悩
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「お前は・・・・なにがしたい。」
突然背後から降ってきた問いかけに、黒はピクリと身を震わせた。
「海神・・・・か。君に気づけないなんて。白妙が気を失えば君を捕らえていた術がとけてしまう・・・・。君がここへ来るのは、当然だというのに・・・・。」
黒は自嘲気味につぶやいた・・・・・。
今の自分には、海神の攻撃を防げるだけの体力は備わっていない。
どうにか海神をかわし、この場を切り抜ける方法はないだろうかと探りながら、黒は、深く息を吐き出した。
「海神・・・・・。君は・・・・僕を、殺したい?」
「なぜだ。」
「恨んでいるだろう?僕を・・・・・。」
「必要ない。・・・・私は水妖だ。お前の偽りを知っている。・・・・もう戻れ。白妙が目を覚ますぞ。」
黒は驚きでわずかに目を見開いた。
この若い神妖は、龍粋ほどの力は持ち合わせてはいないが、彼の高潔な魂と善の心を、確かに受け継いでいる。
だが・・・・。
「・・・・・そうだね。もう、行くよ。僕は君とはかかわりたくないし。少し、恨んでいるんだ・・・君の存在を。・・・・・逆恨みだと、わかっているけれどね。」
恐らく、定められた未来であったのだろうが、やはりそれでも、「海神さえいなければ、もう少し希望のある現在を望めたのではないか」と・・・・どこかで思ってしまうことを止めることはできなかった。
硬く目を閉じたままの白妙の頬をそっとなで、黒は、痛みにたえながら立ち上がった。
「白妙のこと・・・・君に、預けていい?・・・・君の心が、自由でいる間だけでいいんだ。どうか彼女を、支えてやって。」
「うん。」
海神の素直な返事に、痛みをこらえながら黒は苦笑した。
「君はいい子だね。・・・・ありがとう。」
黒は立ち上がって海神の濡れた髪に触れ、頭の上に手を置いた。
「ごめんね。少し、痛くするよ・・・・・」
直後。
黒の瞳が紅く煌めくと同時に、海神は柳の眉を歪め、意識を失ってその場に崩れ落ちた。
海神の中のいくつかの記憶を、黒が壊したのだ。
「余計なことは、覚えていなくていい・・・・。」
海神を抱きとめると、黒は海神の美しい顔に、寂し気なつぶやきを落とした。
黒は海神をそっと白妙の傍らに横たえ、再び白妙の手を握り、治癒の術を施し始めた・・・・。
*********************************
日差しを感じ、ズキリと痛む頭に手をあてた海神が起き上がると、傍らに白妙が横たわっていた・・・・。
その静かな寝顔を目にした海神の中に「自分が白妙を支えるのだ」という、強い想いがフツフツと湧きあがってくる。
だが海神は、なぜ自分と白妙がここに寝ているのかはどうしても分からなかったし、思い出すこともできないでいた。
この日以来、白妙が男の神妖の姿へと成る事は、ほとんどなかった。
宵闇を手にかけた姿でいること・・・・・彼を愛していた女でいることに耐えられず、かといって彼が愛してくれた自分の姿を手放すこともできない白妙の苦悩が、そこに現れていた。
『白妙は、本当に美人さんだ。そうやって、もっとたくさん笑って、いろんな人に話しかけるようになれば、誰もが君に夢中になる。俺のこの図々しいくらいの人懐こさを、君に少し移せたらいいんだが。』
過去に宵闇が紡いだ言葉だけが、標となって白妙を支えていた。
愛おしい者の想いと、心だけが残されたこの世界で・・・。
海神と彼呼迷軌という2つの託されたものを、白妙は2千年もの間、ひたすら護り続けていった。
突然背後から降ってきた問いかけに、黒はピクリと身を震わせた。
「海神・・・・か。君に気づけないなんて。白妙が気を失えば君を捕らえていた術がとけてしまう・・・・。君がここへ来るのは、当然だというのに・・・・。」
黒は自嘲気味につぶやいた・・・・・。
今の自分には、海神の攻撃を防げるだけの体力は備わっていない。
どうにか海神をかわし、この場を切り抜ける方法はないだろうかと探りながら、黒は、深く息を吐き出した。
「海神・・・・・。君は・・・・僕を、殺したい?」
「なぜだ。」
「恨んでいるだろう?僕を・・・・・。」
「必要ない。・・・・私は水妖だ。お前の偽りを知っている。・・・・もう戻れ。白妙が目を覚ますぞ。」
黒は驚きでわずかに目を見開いた。
この若い神妖は、龍粋ほどの力は持ち合わせてはいないが、彼の高潔な魂と善の心を、確かに受け継いでいる。
だが・・・・。
「・・・・・そうだね。もう、行くよ。僕は君とはかかわりたくないし。少し、恨んでいるんだ・・・君の存在を。・・・・・逆恨みだと、わかっているけれどね。」
恐らく、定められた未来であったのだろうが、やはりそれでも、「海神さえいなければ、もう少し希望のある現在を望めたのではないか」と・・・・どこかで思ってしまうことを止めることはできなかった。
硬く目を閉じたままの白妙の頬をそっとなで、黒は、痛みにたえながら立ち上がった。
「白妙のこと・・・・君に、預けていい?・・・・君の心が、自由でいる間だけでいいんだ。どうか彼女を、支えてやって。」
「うん。」
海神の素直な返事に、痛みをこらえながら黒は苦笑した。
「君はいい子だね。・・・・ありがとう。」
黒は立ち上がって海神の濡れた髪に触れ、頭の上に手を置いた。
「ごめんね。少し、痛くするよ・・・・・」
直後。
黒の瞳が紅く煌めくと同時に、海神は柳の眉を歪め、意識を失ってその場に崩れ落ちた。
海神の中のいくつかの記憶を、黒が壊したのだ。
「余計なことは、覚えていなくていい・・・・。」
海神を抱きとめると、黒は海神の美しい顔に、寂し気なつぶやきを落とした。
黒は海神をそっと白妙の傍らに横たえ、再び白妙の手を握り、治癒の術を施し始めた・・・・。
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日差しを感じ、ズキリと痛む頭に手をあてた海神が起き上がると、傍らに白妙が横たわっていた・・・・。
その静かな寝顔を目にした海神の中に「自分が白妙を支えるのだ」という、強い想いがフツフツと湧きあがってくる。
だが海神は、なぜ自分と白妙がここに寝ているのかはどうしても分からなかったし、思い出すこともできないでいた。
この日以来、白妙が男の神妖の姿へと成る事は、ほとんどなかった。
宵闇を手にかけた姿でいること・・・・・彼を愛していた女でいることに耐えられず、かといって彼が愛してくれた自分の姿を手放すこともできない白妙の苦悩が、そこに現れていた。
『白妙は、本当に美人さんだ。そうやって、もっとたくさん笑って、いろんな人に話しかけるようになれば、誰もが君に夢中になる。俺のこの図々しいくらいの人懐こさを、君に少し移せたらいいんだが。』
過去に宵闇が紡いだ言葉だけが、標となって白妙を支えていた。
愛おしい者の想いと、心だけが残されたこの世界で・・・。
海神と彼呼迷軌という2つの託されたものを、白妙は2千年もの間、ひたすら護り続けていった。
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