双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
139 / 266

白妙の苦悩

しおりを挟む
 「お前は・・・・なにがしたい。」

 突然背後から降ってきた問いかけに、黒はピクリと身を震わせた。
 
 「海神わだつみ・・・・か。君に気づけないなんて。白妙が気を失えば君を捕らえていた術がとけてしまう・・・・。君がここへ来るのは、当然だというのに・・・・。」

 黒は自嘲気味につぶやいた・・・・・。
 今の自分には、海神の攻撃を防げるだけの体力は備わっていない。
 どうにか海神をかわし、この場を切り抜ける方法はないだろうかと探りながら、黒は、深く息を吐き出した。

 「海神・・・・・。君は・・・・僕を、殺したい?」

 「なぜだ。」

 「恨んでいるだろう?僕を・・・・・。」

 「必要ない。・・・・私は水妖だ。お前の偽りを知っている。・・・・もう戻れ。白妙が目を覚ますぞ。」

 黒は驚きでわずかに目を見開いた。
 この若い神妖は、龍粋りゅうすいほどの力は持ち合わせてはいないが、彼の高潔な魂と善の心を、確かに受け継いでいる。

 だが・・・・。

 「・・・・・そうだね。もう、行くよ。僕は君とはかかわりたくないし。少し、恨んでいるんだ・・・君の存在を。・・・・・逆恨みだと、わかっているけれどね。」

 恐らく、定められた未来であったのだろうが、やはりそれでも、「海神さえいなければ、もう少し希望のある現在いまを望めたのではないか」と・・・・どこかで思ってしまうことを止めることはできなかった。

 硬く目を閉じたままの白妙の頬をそっとなで、黒は、痛みにたえながら立ち上がった。

 「白妙のこと・・・・君に、預けていい?・・・・君の心が、自由でいる間だけでいいんだ。どうか彼女を、支えてやって。」

 「うん。」

 海神の素直な返事に、痛みをこらえながら黒は苦笑した。

 「君はいい子だね。・・・・ありがとう。」

 黒は立ち上がって海神の濡れた髪に触れ、頭の上に手を置いた。

 「ごめんね。少し、痛くするよ・・・・・」

 直後。
 黒の瞳が紅く煌めくと同時に、海神は柳の眉を歪め、意識を失ってその場に崩れ落ちた。
 海神の中のいくつかの記憶を、黒が壊したのだ。

 「余計なことは、覚えていなくていい・・・・。」

 海神を抱きとめると、黒は海神の美しい顔に、寂し気なつぶやきを落とした。
 黒は海神をそっと白妙の傍らに横たえ、再び白妙の手を握り、治癒の術を施し始めた・・・・。

*********************************

 日差しを感じ、ズキリと痛む頭に手をあてた海神が起き上がると、傍らに白妙が横たわっていた・・・・。

 その静かな寝顔を目にした海神の中に「自分が白妙を支えるのだ」という、強い想いがフツフツと湧きあがってくる。
 だが海神は、なぜ自分と白妙がここに寝ているのかはどうしても分からなかったし、思い出すこともできないでいた。

 この日以来、白妙が男の神妖の姿へと成る事は、ほとんどなかった。

 宵闇を手にかけた姿でいること・・・・・彼を愛していた女でいることに耐えられず、かといって彼が愛してくれた自分の姿を手放すこともできない白妙の苦悩が、そこに現れていた。

 『白妙は、本当に美人さんだ。そうやって、もっとたくさん笑って、いろんな人に話しかけるようになれば、誰もが君に夢中になる。俺のこの図々しいくらいの人懐こさを、君に少し移せたらいいんだが。』

 過去に宵闇が紡いだ言葉だけが、しるべとなって白妙を支えていた。

 愛おしい者の想いと、心だけが残されたこの世界で・・・。
 海神と彼呼迷軌という2つの託されたものを、白妙は2千年もの間、ひたすら護り続けていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...