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海神の告白 1
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「海神・・・・君、今・・・なんて?」
あまりにも唐突に紡がれた海神の言葉に、ボクは間抜けな言葉を返してしまった。
「蒼・・・・強くなりたいのだ。」
追い詰められたような、海神のまっすぐな瞳に、ボクの心臓は大きく鼓動を響かせた。
「なぜ?・・・・必要ない。」
「蒼・・・・・。」
咎めるように名を呼ばれ、ボクは小さく息を吐き出した。
その響きには、明らかに「言わなくともわかっているはずだ」という意味が込められていた。
「お前の荷物にはなりたくない。」
海神の言葉には淀みがない。
それでもボクは、踏み出すつもりはなかった。
名づけを行えば、海神の力は数段上がるだろう。
だが、自分を抱いていた男が師の仇であったという・・・残酷な事実を、彼に知られるわけにはいかないのだ。
ボクは言葉を失った。
答えを探しながら、無意識のうちに海神の頬に延ばした手は、だが、彼の柔らかな肌に触れる直前・・・・思いがけない海神の言葉に、凍り付いたように硬直し、石像のように固まった。
「蒼・・・・過去のことを、気に病むのはやめろ。」
「海・・・神・・・・?」
「蒼。お前は、綺麗好きだろう・・・・・。なのになぜいつも、私のために汚れようとする。」
海神の表情は静謐としながらも、温かみを帯びている。
優しさに満ちた不思議な表情に、ボクは目を細め息をのんだ。
「私は幾度傷ついても大丈夫だというのに・・・・。お前が、誓ってくれたのだろう?私が見る悪い夢はお前が、何度でも祓ってくれると。」
「・・・・・。」
「怒ってくれていい・・・・蒼。・・・黄色の妖気の根城で、お前の懐の中に守られていたあの時・・・・。私はそこで白い繭の内に納められていた組紐を見つけ、ほんの一瞬だけ、お前と白妙とが恋慕の情で結ばれた間柄かと、疑った・・・・。2千年前、私が大切な者に捧げたはずの組紐が、お前の元にあったものだから・・・・。」
「馬鹿なっ・・・」
「そうだ。私は、愚かだ。・・・碧の店で、お前と幼子が戯れる様を見ていた時ふいに廻ったあの懐かしい感覚・・・・そして私が白妙に送ったはずの組紐。この二つの事柄が結びつくまで、私は全く気づけなかった・・・・・。」
「海神・・・・君・・・・・・」
「兄様を喰ったことは、お前の気に病むことではない。あれだけの深手だ。長くないことは、幼くとも理解していた。兄様の死は・・・・・私の罪だ。我が師・・・・龍粋の最期を看取ってくれたこと、心から感謝する。」
「・・・・・。」
「蒼・・・・お前、兄様に会ってから、わずかに・・・話し方を変えたのだな。ひと時の出逢いでしかなかっただろうに・・・・・。兄様は最期にそれほどにお前に想われ、幸せだったろう。・・・妬けるぞ。」
切なげに細められた海神の美しい瞳から、澄んだ涙がぽろりとこぼれ、雪のように白いなめらかな肌に、一筋の美しい線を描いた。
「心のままに生きろ・・・蒼。・・・・自由で、奔放で、幼い私がどんなに背を向け逃げ回っても、正面から無理矢理抱きしめてくれた・・・・洞窟で共に暮らした、2千年前のあの時のように・・・。」
ボクは震える手で、海神の涙をぬぐった。
あまりにも唐突に紡がれた海神の言葉に、ボクは間抜けな言葉を返してしまった。
「蒼・・・・強くなりたいのだ。」
追い詰められたような、海神のまっすぐな瞳に、ボクの心臓は大きく鼓動を響かせた。
「なぜ?・・・・必要ない。」
「蒼・・・・・。」
咎めるように名を呼ばれ、ボクは小さく息を吐き出した。
その響きには、明らかに「言わなくともわかっているはずだ」という意味が込められていた。
「お前の荷物にはなりたくない。」
海神の言葉には淀みがない。
それでもボクは、踏み出すつもりはなかった。
名づけを行えば、海神の力は数段上がるだろう。
だが、自分を抱いていた男が師の仇であったという・・・残酷な事実を、彼に知られるわけにはいかないのだ。
ボクは言葉を失った。
答えを探しながら、無意識のうちに海神の頬に延ばした手は、だが、彼の柔らかな肌に触れる直前・・・・思いがけない海神の言葉に、凍り付いたように硬直し、石像のように固まった。
「蒼・・・・過去のことを、気に病むのはやめろ。」
「海・・・神・・・・?」
「蒼。お前は、綺麗好きだろう・・・・・。なのになぜいつも、私のために汚れようとする。」
海神の表情は静謐としながらも、温かみを帯びている。
優しさに満ちた不思議な表情に、ボクは目を細め息をのんだ。
「私は幾度傷ついても大丈夫だというのに・・・・。お前が、誓ってくれたのだろう?私が見る悪い夢はお前が、何度でも祓ってくれると。」
「・・・・・。」
「怒ってくれていい・・・・蒼。・・・黄色の妖気の根城で、お前の懐の中に守られていたあの時・・・・。私はそこで白い繭の内に納められていた組紐を見つけ、ほんの一瞬だけ、お前と白妙とが恋慕の情で結ばれた間柄かと、疑った・・・・。2千年前、私が大切な者に捧げたはずの組紐が、お前の元にあったものだから・・・・。」
「馬鹿なっ・・・」
「そうだ。私は、愚かだ。・・・碧の店で、お前と幼子が戯れる様を見ていた時ふいに廻ったあの懐かしい感覚・・・・そして私が白妙に送ったはずの組紐。この二つの事柄が結びつくまで、私は全く気づけなかった・・・・・。」
「海神・・・・君・・・・・・」
「兄様を喰ったことは、お前の気に病むことではない。あれだけの深手だ。長くないことは、幼くとも理解していた。兄様の死は・・・・・私の罪だ。我が師・・・・龍粋の最期を看取ってくれたこと、心から感謝する。」
「・・・・・。」
「蒼・・・・お前、兄様に会ってから、わずかに・・・話し方を変えたのだな。ひと時の出逢いでしかなかっただろうに・・・・・。兄様は最期にそれほどにお前に想われ、幸せだったろう。・・・妬けるぞ。」
切なげに細められた海神の美しい瞳から、澄んだ涙がぽろりとこぼれ、雪のように白いなめらかな肌に、一筋の美しい線を描いた。
「心のままに生きろ・・・蒼。・・・・自由で、奔放で、幼い私がどんなに背を向け逃げ回っても、正面から無理矢理抱きしめてくれた・・・・洞窟で共に暮らした、2千年前のあの時のように・・・。」
ボクは震える手で、海神の涙をぬぐった。
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