双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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 黒を抱きかかえた光弘が姿を消し、中庭に一人取り残された白妙は、玉砂利の上に重く膝を沈め泣き崩れた・・・・・。

 身体を丸めうずくまり、絞り出すような声を上げ泣き叫んでいる白妙の元へ、海神は静かに歩みより、その背に優しく触れる。
 白妙はビクリと大きく身体を震わせたが、そのまま顔を上げることもなく、嗚咽を漏らし続けた。

 堂々としていて気が強そうに見えるが、白妙という妖鬼の心は繊細で酷くもろい・・・・。
 恐らく今の彼女の言動は、長い時を渡る間に身に着けた、鎧のようなものなのだろう。


 ・・・・・ボクが初めて白妙と出会った、2千年前のあの時・・・・・・。

 ボクから海神を受け取る彼女の細い腕は、かわいそうなほどに震えていた・・・・・。
 凛として物静かで、冷淡な表情の持ち主・・・・恐らく、あれが本来の彼女の姿だったのだ。

 今にして思えば、あの時のボクはあまりにも身勝手で、彼女に対して思いやりの欠片すらなかった。

 白妙の細い肩は、底冷えのするような心細さと不安に襲われ、ふらふらと揺れているほどだったのに・・・・・。
 ボクは、幼い海神を手放さなければならないという、身の内を引き裂かれるような寂しさと、これから先の時間を彼とともに過ごすことのできる彼女への激しい嫉妬心から、残酷な言葉を残しただけで振り向くことさえせずに、その場を去ったのだ。

 白妙にボクの正体を口留めし、彼女となり替わったことを海神に隠すようにと伝えて・・・・。

 吹けば壊れてしまいそうだったあの時の彼女の面影と、あまりにもかけ離れたその姿に、先日再開した時、二人が同一の者だということに、しばらく気づけなかった。

 2千年前から、ボクは情報源である三毛や周りの者に、手放した幼子やボクが喰った青年のことについて、決して触れてくれるなと、きつく念を押していた。
 耳に入ればボクは青年のことを深く知りたくなるだろうし、あのかわいい幼子を、取り戻しに行ってしまいたくなる・・・・。

 出会ったことを・・・・ともに過ごした時間を忘れることしか、ボクにできることはなかった。

 当時からボクは、持ち物を納めておく繭の全てに、中身が何かを書き入れていた。
 他のたくさんの繭と同じように、あの幼子から贈られた、最初で最後の大切な組紐を繭に納め、内容を記そうとしたボクの手は、筆がかすかに繭に触れたところで止まってしまった。

 結局、何も書くことができず、ボクは白いままの繭を大切にしまった。
 忘れること以外できることなどないと分かっている・・・・。

 それなのに・・・・・三毛に「余計なことを何もふきこむな」と脅しておきながら、ボクは日に一度はその組紐をたまらなく確かめたくなって、繭を懐から取り出してはとどまり、白く滑らかな繭玉をただ指でなぞっていた。

 そのころ各界を大きく騒がせた黒の妖鬼という存在の話は、ボクの気を紛らわせるのに非常に都合がよかった。

 ボクはしきりに黒の情報を細かく聞きたがり、三毛に収集させた。
 だが、利口で優しい三毛は、その話を伝える際も、海神と幼子が同一人物であることなどみじんもボクに感じさせなかったのだ。

 ボクの願いを一貫して聞き入れ、幼子や白妙が彼女の話す者と同一の者であることがわからないよう、たくみに伏せて、ボクに興味深い話として聞かせてくれた。



 ・・・・・海神と幼子が同一であると知りえた今・・・・・。

 白妙の痛々しい在りようは、息が詰まりそうなくらい、ボクの心を深くえぐっていた。

 彼女はあの・・・か細い身体で、ボクの無責任な願いを真摯に受け止め、ひたすらに傷つき続けながら、決して海神に真実を告げたりしなかったのだ。

  「蒼っ・・・。」

 無言のまましばらく白妙の背をなでていた海神だったが、眉間にしわをよせ、焦ったようにボクの名を呼んできた。

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