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龍粋を継ぐ者
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「白妙・・・・。君に、見て欲しい物がある。」
宵闇の傍を離れようとしない白妙の元へ神妖の長が訪れたのは、あの日からひと月が経ったころだった。
半分魂が抜け落ちたような、儚げな瞳で見返してきた白妙の手を取り、長は彼女の心へ直接、その情景を見せた。
「長・・・・・これは。」
「龍粋を継ぐ者だよ。彼は今、自らの後継となる者を、育てているんだ。」
白妙の心に流れ込んできたのは、龍粋が幼い子供に熱心に書を教えている情景だった。
ひんやりとした含みをもって紡がれた、長のその言葉に、白妙はハッとして目を見開いた。
「やはり、君は聡い子だね。・・・・分かったのだろう。このことが、一体何を意味しているのかを。」
「まさか・・・・・・。」
まるで殴られたかのような衝撃を伴って伝えられた事実に、白妙は混乱し、ひどく眩暈がをおぼえた。
神妖は、ある程度まで成長すると、そこから先は年齢を止めていられる。
中には、あえて年齢を縛らず天寿を作り全うする変わった者もあるが、大概の神妖は、老いによる最期をもたない。
妖月である自分たちも例外ではなく、むしろ界の位の神妖より力が上の者ともなれば、まずなにかに襲われて死ぬということはないため、各々の後を継ぐ者をあえて育てる者は少なかった。
龍粋に至っては、歴代の神妖のうち最強とも呼ばれているほどの強さをもっている、ほとんど不老不死といっても差支えのない存在だ。
継ぐ者を育てる必要など、全くないはずだった。
その龍粋が、自分たちにも伝えることなく、密に継ぐ者を育てているという事実は、たった一つの受け入れがたい答えを、白妙の頭を殴りつけるような衝撃を伴って、乱暴に突きつけてきた。
「龍粋が・・・・死ぬというのですか?」
白妙の最後の方の声は、冷たくかすれ、震えていた。
「榊の占いが示す未来の内の一つだ。違えることはない。・・・・・それでもあきらめきれず、龍粋は独り抗い続けている。お前たち2人のいる未来に、自らも共にありたいと・・・・・。」
「先日の龍粋の暴走は・・・・・」
「君の考えている通りで間違いないよ。龍粋は、術の最中に迷いに喰われてしまった。たとえ意思のない生命体へ変容したとしても、生きて共に未来へ進めるなら、と・・・・龍粋は、思わず願ってしまったのだ・・・・・。」
・・・・・龍粋は、自分に残された未来が残りわずかである事を知っている。
彼が、「宵闇や白妙と共にあれるならば、どんな姿になっても構わないと」・・・・願ってしまった結果が、先日の龍粋の暴走だったのだ。
白妙は、宵闇を道づれに、暴走する龍粋と運命を共にすることを選んだ。
宵闇は、白妙を生かし、自らが代わりに龍粋と共に逝くことを選んだのだ。
「長・・・・・しばらくの間。宵闇を頼みます。」
白妙は、変わらず静かに寝息を立て続けている宵闇の美しい顔を、見ている者の胸をしめつけるような切ない表情で見つめた。
離れることが耐えがたいというように、愛おしそうに宵闇の滑らかな頬を数度撫でると、白妙は部屋を後にした。
部屋を出ると、扉のすぐ向こう側で、仮面の子供が静かにたたずんでいた。
白妙が笑顔を向けると、仮面の子供は潤んだ瞳で見つめ返してきた。
「すまない。お前にも心配をかけてしまったね。・・・・少し出かけてくるから、宵闇を頼むよ。・・・・どうか奴の近くに、いてやっておくれ。」
そう言って白妙が頭をなでると、仮面の子供は真面目な顔で深くうなずいた。
「僕。宵闇のそばにいるよ。・・・・なるべく早く帰ってあげて。宵闇は、白妙が一番なんだ。」
仮面の子供の言葉に、白妙は少し驚いて目を開いたが、苦い笑みを浮かべると、何も言わずその場を後にした。
宵闇の傍を離れようとしない白妙の元へ神妖の長が訪れたのは、あの日からひと月が経ったころだった。
半分魂が抜け落ちたような、儚げな瞳で見返してきた白妙の手を取り、長は彼女の心へ直接、その情景を見せた。
「長・・・・・これは。」
「龍粋を継ぐ者だよ。彼は今、自らの後継となる者を、育てているんだ。」
白妙の心に流れ込んできたのは、龍粋が幼い子供に熱心に書を教えている情景だった。
ひんやりとした含みをもって紡がれた、長のその言葉に、白妙はハッとして目を見開いた。
「やはり、君は聡い子だね。・・・・分かったのだろう。このことが、一体何を意味しているのかを。」
「まさか・・・・・・。」
まるで殴られたかのような衝撃を伴って伝えられた事実に、白妙は混乱し、ひどく眩暈がをおぼえた。
神妖は、ある程度まで成長すると、そこから先は年齢を止めていられる。
中には、あえて年齢を縛らず天寿を作り全うする変わった者もあるが、大概の神妖は、老いによる最期をもたない。
妖月である自分たちも例外ではなく、むしろ界の位の神妖より力が上の者ともなれば、まずなにかに襲われて死ぬということはないため、各々の後を継ぐ者をあえて育てる者は少なかった。
龍粋に至っては、歴代の神妖のうち最強とも呼ばれているほどの強さをもっている、ほとんど不老不死といっても差支えのない存在だ。
継ぐ者を育てる必要など、全くないはずだった。
その龍粋が、自分たちにも伝えることなく、密に継ぐ者を育てているという事実は、たった一つの受け入れがたい答えを、白妙の頭を殴りつけるような衝撃を伴って、乱暴に突きつけてきた。
「龍粋が・・・・死ぬというのですか?」
白妙の最後の方の声は、冷たくかすれ、震えていた。
「榊の占いが示す未来の内の一つだ。違えることはない。・・・・・それでもあきらめきれず、龍粋は独り抗い続けている。お前たち2人のいる未来に、自らも共にありたいと・・・・・。」
「先日の龍粋の暴走は・・・・・」
「君の考えている通りで間違いないよ。龍粋は、術の最中に迷いに喰われてしまった。たとえ意思のない生命体へ変容したとしても、生きて共に未来へ進めるなら、と・・・・龍粋は、思わず願ってしまったのだ・・・・・。」
・・・・・龍粋は、自分に残された未来が残りわずかである事を知っている。
彼が、「宵闇や白妙と共にあれるならば、どんな姿になっても構わないと」・・・・願ってしまった結果が、先日の龍粋の暴走だったのだ。
白妙は、宵闇を道づれに、暴走する龍粋と運命を共にすることを選んだ。
宵闇は、白妙を生かし、自らが代わりに龍粋と共に逝くことを選んだのだ。
「長・・・・・しばらくの間。宵闇を頼みます。」
白妙は、変わらず静かに寝息を立て続けている宵闇の美しい顔を、見ている者の胸をしめつけるような切ない表情で見つめた。
離れることが耐えがたいというように、愛おしそうに宵闇の滑らかな頬を数度撫でると、白妙は部屋を後にした。
部屋を出ると、扉のすぐ向こう側で、仮面の子供が静かにたたずんでいた。
白妙が笑顔を向けると、仮面の子供は潤んだ瞳で見つめ返してきた。
「すまない。お前にも心配をかけてしまったね。・・・・少し出かけてくるから、宵闇を頼むよ。・・・・どうか奴の近くに、いてやっておくれ。」
そう言って白妙が頭をなでると、仮面の子供は真面目な顔で深くうなずいた。
「僕。宵闇のそばにいるよ。・・・・なるべく早く帰ってあげて。宵闇は、白妙が一番なんだ。」
仮面の子供の言葉に、白妙は少し驚いて目を開いたが、苦い笑みを浮かべると、何も言わずその場を後にした。
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