103 / 266
2千年前に・・・・ 4 (龍粋)
しおりを挟む
ある日唐突に・・・・神妖たちにとっては、何の前触れもなく、抗い難い絶望の暗い影が神妖界を包み込んだ。
前兆に気づいていた者はただ一人・・・・・龍粋のみである。
長を凌ぐ妖力の持ち主として知られている龍粋だが、決しておごるようなことはなく、五常に重きを置いた性質をもち、どの者も分別しない公平で静謐とした人物であるため、彼を貶めるような言葉を吐く者はいなかった。
誰一人として太刀打ちのできる者などいないほどの強大な力を有しているにもかかわらず、神妖界の守護として常に修練を重ね続ける龍粋の姿は、精励恪勤そのものでもあり、狭い世界に生きる神妖たちを安心させる心の礎ともなっていた。
皆に癒しを与えるのが長ならば、安心を与えているのが、この龍粋という男である・・・・・。
そんな龍粋にとって、自分よりわずかながら時を遅くして生まれた白妙と宵闇の2人は、人でいう兄弟のような、かけがえのない大切な存在だ。
幼いころから屈託なく自分に絡みついてくる、自分と歳の近い2人を、心から愛おしく想っていたし、常に互いを支え合っている二人の姿は、龍粋の目にとても好ましく映っていた。
長が人の子を保護し、育て始めてから暫くたったある日・・・・・。
毎日の神事として行っている榊の占いの指し示した結果に、龍粋は独り戦慄していた。
示された未来に、自分の影を欠片も見出すことができなかったのだ。
龍粋の脳裏に、白妙と宵闇の姿が鮮明に浮かび、同時に「共に生きたい」という叫び出したいほどの強い想いが激流となって溢れ出た。
心の内では生きることを諦めるつもりはなかったが、龍粋は自分の占いが違えることのないことを、今までの経験から理解してもいた。
龍粋はその日。
誰に告げることもなく、独り命逢を訪れた。
先日、命逢の大樹に気になるところがあり確認にきた際、偶然目にした幼子がどうしようもないほど気にかかっていたのだ。
その幼子は、生まれながらに並外れた妖力を持っていた。
一緒に過ごしている他の幼子たちは、正確に感じ取れないまでも、この幼子に異質なものを感じているのか、彼を追いやったり、からかったりとして仲間に入れようとせず悪さを重ねていた。
だのに、強い妖力を持つこの幼子は、その力を使って防いだり、やり返すことなどはしなかった。
そればかりか、離れて逃げていればよいものを、子供らの輪からほど近い位置に凛としてたたずみ、決して離れようとはしないのだ。
彼のその行いに子供らの残虐な好奇心は更に煽られ、ついには石などをぶつけ始めた。
この子は、妖力は強いけれども、その力の使い方を知らないのかもしれない。
身を守る力を持ちながらそれを使わない幼子の姿に、龍粋がそう結論づけていると、投げられた石が幼子の頬を傷つけ、血が流れた。
それまで耐えて見守っていた龍粋は、たまらず止めに入ろうと歩みでようとし、すぐにその足を止めた。
子供らからはまだ離れていたが、背後の枝に巨大な神妖の長い影が忍び寄ろうとしているのが見えたのだ。
神妖の中にも、質の悪い者は少なからずおり、子供を喰って妖力を上げ理性を失っているものもいる。
子供らを狙い静かに枝を伝うそいつは穢れ堕ちたそれ、そのものだった。
龍粋は眉をひそめ、それが子供たちに近寄る前に排除しようとした。
だが、龍粋よりも早く動いた者がいた。
・・・・あの、幼子だ。
彼は印を組み、小さく口を動かした。
その瞬間、枝に絡みついたそれは、赤黒い蒸気を吹き上げながら干からびていき、最期は粉になって崩れ去った。
幼子はそれを見届けると、クルリと背を向けその場から立ち去っていった。
歩み去る幼子の背に、何も気づいていない子供らの投げつける石がいくつもぶつかっていた。
前兆に気づいていた者はただ一人・・・・・龍粋のみである。
長を凌ぐ妖力の持ち主として知られている龍粋だが、決しておごるようなことはなく、五常に重きを置いた性質をもち、どの者も分別しない公平で静謐とした人物であるため、彼を貶めるような言葉を吐く者はいなかった。
誰一人として太刀打ちのできる者などいないほどの強大な力を有しているにもかかわらず、神妖界の守護として常に修練を重ね続ける龍粋の姿は、精励恪勤そのものでもあり、狭い世界に生きる神妖たちを安心させる心の礎ともなっていた。
皆に癒しを与えるのが長ならば、安心を与えているのが、この龍粋という男である・・・・・。
そんな龍粋にとって、自分よりわずかながら時を遅くして生まれた白妙と宵闇の2人は、人でいう兄弟のような、かけがえのない大切な存在だ。
幼いころから屈託なく自分に絡みついてくる、自分と歳の近い2人を、心から愛おしく想っていたし、常に互いを支え合っている二人の姿は、龍粋の目にとても好ましく映っていた。
長が人の子を保護し、育て始めてから暫くたったある日・・・・・。
毎日の神事として行っている榊の占いの指し示した結果に、龍粋は独り戦慄していた。
示された未来に、自分の影を欠片も見出すことができなかったのだ。
龍粋の脳裏に、白妙と宵闇の姿が鮮明に浮かび、同時に「共に生きたい」という叫び出したいほどの強い想いが激流となって溢れ出た。
心の内では生きることを諦めるつもりはなかったが、龍粋は自分の占いが違えることのないことを、今までの経験から理解してもいた。
龍粋はその日。
誰に告げることもなく、独り命逢を訪れた。
先日、命逢の大樹に気になるところがあり確認にきた際、偶然目にした幼子がどうしようもないほど気にかかっていたのだ。
その幼子は、生まれながらに並外れた妖力を持っていた。
一緒に過ごしている他の幼子たちは、正確に感じ取れないまでも、この幼子に異質なものを感じているのか、彼を追いやったり、からかったりとして仲間に入れようとせず悪さを重ねていた。
だのに、強い妖力を持つこの幼子は、その力を使って防いだり、やり返すことなどはしなかった。
そればかりか、離れて逃げていればよいものを、子供らの輪からほど近い位置に凛としてたたずみ、決して離れようとはしないのだ。
彼のその行いに子供らの残虐な好奇心は更に煽られ、ついには石などをぶつけ始めた。
この子は、妖力は強いけれども、その力の使い方を知らないのかもしれない。
身を守る力を持ちながらそれを使わない幼子の姿に、龍粋がそう結論づけていると、投げられた石が幼子の頬を傷つけ、血が流れた。
それまで耐えて見守っていた龍粋は、たまらず止めに入ろうと歩みでようとし、すぐにその足を止めた。
子供らからはまだ離れていたが、背後の枝に巨大な神妖の長い影が忍び寄ろうとしているのが見えたのだ。
神妖の中にも、質の悪い者は少なからずおり、子供を喰って妖力を上げ理性を失っているものもいる。
子供らを狙い静かに枝を伝うそいつは穢れ堕ちたそれ、そのものだった。
龍粋は眉をひそめ、それが子供たちに近寄る前に排除しようとした。
だが、龍粋よりも早く動いた者がいた。
・・・・あの、幼子だ。
彼は印を組み、小さく口を動かした。
その瞬間、枝に絡みついたそれは、赤黒い蒸気を吹き上げながら干からびていき、最期は粉になって崩れ去った。
幼子はそれを見届けると、クルリと背を向けその場から立ち去っていった。
歩み去る幼子の背に、何も気づいていない子供らの投げつける石がいくつもぶつかっていた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。
天災
BL
「俺の子を孕め」
そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件
がくん
BL
あらすじ
その背中は──俺の英雄であり、悪党だった。
物分かりのいい人間を演じてきた学生、イズミケントは現実で爆発事故に巻き込まれた。
異世界で放浪していたケントを魔獣から助けたのは悪党面の傭兵マラークだった。
行き場のなかったケントはマラークについていき、新人傭兵として生きていく事を選んだがケントには魔力がなかった。
だがケントにはユニークスキルというものを持っていた。精変換──それは男の精液を取り入れた分だけ魔力に変換するという歪なスキルだった。
憧れた男のように強くなりたいと願ったケントはある日、心を殺してマラークの精液を求めた。
最初は魔力が欲しかっただけなのに──
仲間と性行為を繰り返し、歪んだ支援魔法師として生きるケント。
戦闘の天才と言われる傲慢な男マラーク。
駄犬みたいな後輩だが弓は凄腕のハーヴェイ。
3人の傭兵が日常と性行為を経て、ひとつの小隊へとなっていく物語。
初投稿、BLエロ重視にスポット置いた小説です。耐性のない方は戻って頂ければ。
趣味丸出しですが好みの合う方にはハマるかと思います。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる