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彼呼迷軌の参事 3
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中庭へ戻ると、枷に捕らわれた黒が、白妙に打たれる度に身体を震わせていた。
こらえきれず黒の口から零れ落ちるくぐもったうめき声と、白妙の荒く乱れた呼吸が、黒の引き裂かれた皮膚と美しい口元から流れ落ちる赤い色とともに、乾いた玉砂利の上になまめかしく染み込んでいく。
ボクの腕の中で、海神が身体を固くした。
ボクと海神は、黒の視線から光弘を隠すようにして部屋の入口に立った。
黒が痛みで意識を失うたび、白妙は水を浴びせ意識を戻させると、再び激しく鞭で打った。
水を通したことで、鞭に込められた電流が、黒の全身を荒れ狂う龍神のごとく容赦なく引き裂いていく。
海神は白妙に向かって口を開きかけたが、息をのみ、哀し気に目を伏せ黙り込んでしまった。
黒がこちらに鋭い視線を向け、小さく首を横に振ったのだ。
思わず駆け寄ろうと身を乗り出した光弘の身体を、ボクはしっかりおさえた。
「黒は望まないだろうが、ボクは・・・・君の記憶に留めておくべきだと思う。目を逸らすなよ。」
・・・・・・どれほどの時間がたったのだろうか・・・・一時間をとうに超えても、白妙はまだ黒を打ち据えていた。
固く握りしめられていた黒の両手は、もはや握る気力を失い、力なく開かれている。
生きているのかどうかすら怪しいほどの状態でダラリと枷にぶら下がった黒の口からは、うめき声すらもれることはなくなっていた。
血に濡れた身体は、激しく鞭で打たれているのにただ反動でゆらゆらとゆすられるだけで、動かない。
それでも、白妙はなお黒を打ち続けていた。
打ち据えられているのは黒の方なのに、涙をあふれさせているのも、うめき声をあげているのも白妙の方だった。
「蒼・・・・」
海神がかすれた声でボクの名を呼んだ。
ボクは静かにうなずくと、目のふちを赤くそめ、唇をかみしめている光弘を残し海神の後について中庭へ降りた。
ボクは鞭を振り上げた白妙の手首をしっかり掴んだ。
「もう、いいだろう・・・・。」
海神が白妙に静かに声をかけると、白妙は声を荒げ黒に食って掛かった。
腕を振り払おうとする白妙をボクはきつく抑え込む。
「・・・・・黒・・・お前は・・・・・なんなんだ。何を考えている。なぜ何も言わない!なぜ逃げない!なぜ、私を殺さない!お前には、容易なことだろう!」
白妙の悲鳴のような叫びが、うなだれた黒の頭へ浴びせかけるように吐き出された。
「頼むから・・・言い訳くらいしてくれ・・・・・。私は・・・・私はどうしたらいい。お前を恨むのは・・・・間違えているのか?」
最後の言葉は涙に濡れ、ほとんど聞き取れないほどにかすれてしまっていた。
「・・・な・・い。・・・・・・・・。」
黒が何かをつぶやき、意識を手放した。
白妙の固く握りしめられていた指が力を失い、雷光を脱ぎ去った鞭が、白妙の足元へ重い音をたてて落ちた。
ボクが腕を離すと、白妙はその場に崩れ落ち、嗚咽を漏らした。
『間違えていない。僕は君の仇だ。』
人の耳には聞こえないほどの微かな声で語られた黒の言葉は、確かに白妙の耳に届いていた。
その言葉は白妙の行動を肯定していた。
だがその同時に、白妙を酷く苦しめた・・・・。
この妖鬼は、悪ではない・・・・・。
自分が何かを違えているかもしれないのだと。
黒を捕らえていた白い手枷がガラスの割れるような鋭い音をたて、粉々に砕け散り消え去っていく。
支えを失い意識を失った黒の身体は、前のめりに玉砂利の中に倒れ込んでいった。
光弘が駆け寄り、血にまみれた黒の、傷だらけの身体を抱き止める。
光弘の目には、もはや黒以外何も映っていない。
真っ赤に泣きはらした目で、光弘は黒の頭を抱きしめると、そのまま彼呼迷軌から姿を消した・・・・・。
こらえきれず黒の口から零れ落ちるくぐもったうめき声と、白妙の荒く乱れた呼吸が、黒の引き裂かれた皮膚と美しい口元から流れ落ちる赤い色とともに、乾いた玉砂利の上になまめかしく染み込んでいく。
ボクの腕の中で、海神が身体を固くした。
ボクと海神は、黒の視線から光弘を隠すようにして部屋の入口に立った。
黒が痛みで意識を失うたび、白妙は水を浴びせ意識を戻させると、再び激しく鞭で打った。
水を通したことで、鞭に込められた電流が、黒の全身を荒れ狂う龍神のごとく容赦なく引き裂いていく。
海神は白妙に向かって口を開きかけたが、息をのみ、哀し気に目を伏せ黙り込んでしまった。
黒がこちらに鋭い視線を向け、小さく首を横に振ったのだ。
思わず駆け寄ろうと身を乗り出した光弘の身体を、ボクはしっかりおさえた。
「黒は望まないだろうが、ボクは・・・・君の記憶に留めておくべきだと思う。目を逸らすなよ。」
・・・・・・どれほどの時間がたったのだろうか・・・・一時間をとうに超えても、白妙はまだ黒を打ち据えていた。
固く握りしめられていた黒の両手は、もはや握る気力を失い、力なく開かれている。
生きているのかどうかすら怪しいほどの状態でダラリと枷にぶら下がった黒の口からは、うめき声すらもれることはなくなっていた。
血に濡れた身体は、激しく鞭で打たれているのにただ反動でゆらゆらとゆすられるだけで、動かない。
それでも、白妙はなお黒を打ち続けていた。
打ち据えられているのは黒の方なのに、涙をあふれさせているのも、うめき声をあげているのも白妙の方だった。
「蒼・・・・」
海神がかすれた声でボクの名を呼んだ。
ボクは静かにうなずくと、目のふちを赤くそめ、唇をかみしめている光弘を残し海神の後について中庭へ降りた。
ボクは鞭を振り上げた白妙の手首をしっかり掴んだ。
「もう、いいだろう・・・・。」
海神が白妙に静かに声をかけると、白妙は声を荒げ黒に食って掛かった。
腕を振り払おうとする白妙をボクはきつく抑え込む。
「・・・・・黒・・・お前は・・・・・なんなんだ。何を考えている。なぜ何も言わない!なぜ逃げない!なぜ、私を殺さない!お前には、容易なことだろう!」
白妙の悲鳴のような叫びが、うなだれた黒の頭へ浴びせかけるように吐き出された。
「頼むから・・・言い訳くらいしてくれ・・・・・。私は・・・・私はどうしたらいい。お前を恨むのは・・・・間違えているのか?」
最後の言葉は涙に濡れ、ほとんど聞き取れないほどにかすれてしまっていた。
「・・・な・・い。・・・・・・・・。」
黒が何かをつぶやき、意識を手放した。
白妙の固く握りしめられていた指が力を失い、雷光を脱ぎ去った鞭が、白妙の足元へ重い音をたてて落ちた。
ボクが腕を離すと、白妙はその場に崩れ落ち、嗚咽を漏らした。
『間違えていない。僕は君の仇だ。』
人の耳には聞こえないほどの微かな声で語られた黒の言葉は、確かに白妙の耳に届いていた。
その言葉は白妙の行動を肯定していた。
だがその同時に、白妙を酷く苦しめた・・・・。
この妖鬼は、悪ではない・・・・・。
自分が何かを違えているかもしれないのだと。
黒を捕らえていた白い手枷がガラスの割れるような鋭い音をたて、粉々に砕け散り消え去っていく。
支えを失い意識を失った黒の身体は、前のめりに玉砂利の中に倒れ込んでいった。
光弘が駆け寄り、血にまみれた黒の、傷だらけの身体を抱き止める。
光弘の目には、もはや黒以外何も映っていない。
真っ赤に泣きはらした目で、光弘は黒の頭を抱きしめると、そのまま彼呼迷軌から姿を消した・・・・・。
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