双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
77 / 266

海神>榊の占い

しおりを挟む
 海神は、元来あまり表情を豊かに変える者ではなかった。
 幸か不幸か、海神の負う役目にとって彼のその性質は、非常に都合のよいことだった・・・・・・。

 彼は水神殿の主の務めとして、非常に重要な役目を持っている。

 占いを得意とする水妖の頭目である彼は、榊の占いと呼ばれる特別な術を用いた占いを日に一度は行い、神妖界に大きな変化が起こる相が現れた際、それを長および妖月へ速やかに報告する責務を負っていた。

 だが、この世界に関わらないできごと・・・例えば個人の生死などについては、全く扱いが違う。

 神妖界全体に関わらないものについては、いたずらに本人や周囲に不安を与え、世を乱す元にならないよう、逆に、秘匿しておくことをきつく戒められているのである・・・・・。


 話は少し遡る・・・・・海神が、蒼と出会う1年ほど前の事だ。

 祈りの間で今日も独り、毎日の役目である榊の占いを行った海神は、そこに現れた未来に、冷たく鼓動を震わせていた。

 榊の枝を手にとり、再び占ってみるも、凶相を示したその結果は変わることはなく、彼は手にした枝を力なく卓の上へと置いた。

 榊の枝からうけた現実味のない宣告に、わずかに呼吸を乱した海神は、堅く目を閉じ、深い呼吸を5度繰り返した。
 
 榊の占いは、そのほかの占いとは異なり、示した未来を大きく違えることはない。
 例えるならば、無数の糸が織りなした、大きな絵を見ているようなものなのだ。

 それが変わる・・・もしくは変えるということは、すでに紡がれてしまった無数にある糸を全て解き、一から布を織り直すことと同意・・・・つまりは不可能なことなのである。

 示された未来に独り身体を震わせ、絶望を幾度となく確かめながら、海神は遠い日に失った、兄と慕った男・・・・龍粋りゅうすいのことを思い出していた。

 水妖の棟梁であった龍粋は、・・・・・恐らく死にゆく自身の未来を、すでに知っていたに違いなかった。
 知りながら、龍粋はあの孤独な日々から自分を連れ出し、最期を共にすごすことを選んでくれたのだ・・・・・。

 海神の心を乱しきっている氷の礫が吹きすさぶような恐怖は、龍粋の思い出を感じ彼に同調しようとすることでわずかに落着き、彼はようやく目を開けることができた。

 瞳に光が入ると同時にふと、小さな疑問が、ひっそりと海神の心に浮かんできた。
 冷たい現実とただ向き合うだけの行為を回避したい想いも働き、海神はぽつりと姿を現したその疑問へと考えを巡らせた。

 龍粋という男は、歴代最強と呼ばれる、非常に強力な神妖だった。
 考えたことはなかったが、それほどの神妖である彼には、つがいを望むような想い人は、いなかったのだろうか。

 自分は水神殿を継ぐものとして龍粋に大切にはされていたが、つがいを求める慕情のようなものは、もちろん一滴ほども龍粋から感じることはなかった。
 だとしたら、彼は生涯、そのような者を刹那も感じることなく逝ってしまったのだろうか・・・・・。

 海神には焦がれる者がいるが、彼の想い人である白妙には、宵闇という誰よりも深く想い合っている相手がいた。

 白妙が宵闇を忘れることは、永遠にない・・・・。
 生涯、自分に振り向くことはないだろう。
 最期を迎える時、自分は恐らく独りなのだろうな・・・・。

 そんなことを考え、海神は重いため息をついた。

 思いが通じ合うことはなかったが、それでも、焦がれる相手を想うことが、海神から龍粋を失った途方もない失意を薄れさせ、彼に強く生きる力を与えてくれていたのだ。

 龍粋を失い、絶望に打ち震え、全てを冷たく拒絶していた幼過ぎた私を・・・・・。
 二人きりで過ごす洞窟の中、見離すことなくいつも強く抱きしめ、話しかけ続けてくれたあの日の、白妙のように・・・・・。

 最期を迎えたその時、龍粋の心を支える者がいてくれたなら・・・・。
 彼の手を握り、傍らにいてくれたとしたなら・・・・。
 どうか・・・・誰か・・・・・。

 龍粋の最期を知らない海神は、心の中で祈るようにそう願っていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...