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碧の心遣い
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湯あみを終えたボク達は、さっそく碧の店の前へと移動した。
移動した直後、ボクはふいに、一つのことを思い出して海神に問いかけた。
「そういえば、ここで女たちに囲まれたとき・・・・君、何か言っていたよね。なんて言っていたの?」
ボクの言葉に、海神は少しだけ目を見開き、それから怒ったような顔をした。
「蒼が・・・自分には何をしてもいいけど、私に触れてはだめだと言うから・・・。」
「うん。」
「それは、私の言いたい言葉だ・・・・・・と。・・・それだけだ。」
ボクが海神の言葉に驚いている間に、海神はすでに店の戸へ手をかけている。
「ちょっと待って・・・・・。」
振り向いた海神の、長くなめらかな黒髪を手ですいて首筋に触れると、そこは燃えるような熱を帯び、薄明りのもとでもハッキリとわかるほど、赤みを帯び色めいていた。
「君ってやつは・・・・・。」
ボクは目を細め小さく息を吐き出しながら、海神の頭を引き寄せて額に口づけた。
ほんのり甘みを帯びた海神の清香に胸をくすぐられ、抱きしめる腕に思わず力が入る・・・・・。
しばらくそうしていると、海神が腕の中でわずかに身じろいだ。
慌てて腕を緩めると、海神は大きく息を吐き出し、深く何度も呼吸をしている。
「ごめんっ・・・強く、抱きしめ過ぎた。」
「・・・・蒼。」
ボクが嬉しさのあまり加減を間違えたせいで、海神は息が出来ず堪えていたようだ。
我慢強い海神が思わず身じろぐほど耐えていたのかと思うと、切なさで胸に熱がこみあげてくる・・・。
乱れた髪を直していると、海神はふいにボクの首に腕を絡め、熱い唇を押し付けるように一度だけ強く重ねてから、熱を帯びた揺れる瞳でボクを見つめてきた。
何度か口を開きかけたように見えたが、結局ため息のような小さい吐息を吐き出しただけで、ボクの手を引くとそのまま店の中へ入った。
繭の中へ入った後から・・・・どうも、海神は少し不安定な気がする。
狭い場所が苦手な者もいると聞くから、海神はもしかしたら繭の中で我慢していて、想像以上に心に負担をかけてしまったのかもしれないな・・・・・。
温かいものと、甘い物を食べて少し落ち着くといいんだけど。
海神を気にかけながら店に入ると、碧と幼子が笑顔でボクらを迎えてくれた。
三毛が先に知らせておいてくれたおかげで、待つことなく、すぐに碧が食事を運んでくれる。
素朴さを損なわず、それでいて手の込んだ趣のある碧の料理はやはり絶品で、さらには見た目にも風流な遊び心が嫌味なく散りばめられている様は、見事としか言いようがなかった。
ボクはふと、海神の料理がボクのものと違い、薬膳の香りがすることに気づいた。
「碧。海神のは薬膳なのかい?」
ボクが問いかけると、碧はわずかに口元をほころばせ幼子の頭を撫でた。
「はい。三毛さんがお伝えにいらした際、海神様のお身体を案じていらっしゃいましたので、食べやすい物を選んで臓腑が温まるものをお出しいたしました。何種かご用意いたしましたので、どれか一つでもお口に合うものがあればよいのですが。」
「・・・・ありがとう。私は薬膳が苦手ではないが・・・・それにしても、貴方の料理はとても美味しい。心遣い、感謝する。」
海神は、小ぶりな器に少しずつ盛られた、麺やかゆをゆっくり味わいながら口にはこんだ。
碧の機転の良さに舌を巻きながら、ボクが頭を下げて感謝の言葉を口にすると、碧と子供は驚いて目を丸くし、笑顔を見せた。
移動した直後、ボクはふいに、一つのことを思い出して海神に問いかけた。
「そういえば、ここで女たちに囲まれたとき・・・・君、何か言っていたよね。なんて言っていたの?」
ボクの言葉に、海神は少しだけ目を見開き、それから怒ったような顔をした。
「蒼が・・・自分には何をしてもいいけど、私に触れてはだめだと言うから・・・。」
「うん。」
「それは、私の言いたい言葉だ・・・・・・と。・・・それだけだ。」
ボクが海神の言葉に驚いている間に、海神はすでに店の戸へ手をかけている。
「ちょっと待って・・・・・。」
振り向いた海神の、長くなめらかな黒髪を手ですいて首筋に触れると、そこは燃えるような熱を帯び、薄明りのもとでもハッキリとわかるほど、赤みを帯び色めいていた。
「君ってやつは・・・・・。」
ボクは目を細め小さく息を吐き出しながら、海神の頭を引き寄せて額に口づけた。
ほんのり甘みを帯びた海神の清香に胸をくすぐられ、抱きしめる腕に思わず力が入る・・・・・。
しばらくそうしていると、海神が腕の中でわずかに身じろいだ。
慌てて腕を緩めると、海神は大きく息を吐き出し、深く何度も呼吸をしている。
「ごめんっ・・・強く、抱きしめ過ぎた。」
「・・・・蒼。」
ボクが嬉しさのあまり加減を間違えたせいで、海神は息が出来ず堪えていたようだ。
我慢強い海神が思わず身じろぐほど耐えていたのかと思うと、切なさで胸に熱がこみあげてくる・・・。
乱れた髪を直していると、海神はふいにボクの首に腕を絡め、熱い唇を押し付けるように一度だけ強く重ねてから、熱を帯びた揺れる瞳でボクを見つめてきた。
何度か口を開きかけたように見えたが、結局ため息のような小さい吐息を吐き出しただけで、ボクの手を引くとそのまま店の中へ入った。
繭の中へ入った後から・・・・どうも、海神は少し不安定な気がする。
狭い場所が苦手な者もいると聞くから、海神はもしかしたら繭の中で我慢していて、想像以上に心に負担をかけてしまったのかもしれないな・・・・・。
温かいものと、甘い物を食べて少し落ち着くといいんだけど。
海神を気にかけながら店に入ると、碧と幼子が笑顔でボクらを迎えてくれた。
三毛が先に知らせておいてくれたおかげで、待つことなく、すぐに碧が食事を運んでくれる。
素朴さを損なわず、それでいて手の込んだ趣のある碧の料理はやはり絶品で、さらには見た目にも風流な遊び心が嫌味なく散りばめられている様は、見事としか言いようがなかった。
ボクはふと、海神の料理がボクのものと違い、薬膳の香りがすることに気づいた。
「碧。海神のは薬膳なのかい?」
ボクが問いかけると、碧はわずかに口元をほころばせ幼子の頭を撫でた。
「はい。三毛さんがお伝えにいらした際、海神様のお身体を案じていらっしゃいましたので、食べやすい物を選んで臓腑が温まるものをお出しいたしました。何種かご用意いたしましたので、どれか一つでもお口に合うものがあればよいのですが。」
「・・・・ありがとう。私は薬膳が苦手ではないが・・・・それにしても、貴方の料理はとても美味しい。心遣い、感謝する。」
海神は、小ぶりな器に少しずつ盛られた、麺やかゆをゆっくり味わいながら口にはこんだ。
碧の機転の良さに舌を巻きながら、ボクが頭を下げて感謝の言葉を口にすると、碧と子供は驚いて目を丸くし、笑顔を見せた。
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