双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
60 / 266

繭 2

しおりを挟む
 繭の中は、空ではなかった・・・・・。

 その中に納められていたものを目にした私は、今まで陥ったことがないほどのひどい混乱の中に放り込まれていた。

 衣を震わせるほど強く鼓動が打つ。
 破裂しそうな熱が身体の奥を渦巻いて、抑えられない・・・・。

 名を欲しいと言っていたのに、結ばれたあの日以来、そのことを口にしなくなった蒼・・・・・。

 時折、何か言いたげにこちらを見つめたり、開きかけた口を閉じ、苦しそうな笑顔をみせる蒼・・・・・。

 心も身体もピタリと合わさり、この上なく満たされ結ばれていると感じるのに、そんな蒼の姿に、私は小さな不安をぬぐえずに過ごしていた。

 問うても答えてくれないことは分かっている。
 蒼は自分を飾らない・・・偽らない。
 あけすけにいつだって思いついたまま、真実の言葉を自分に告げてくれる。

 そんな蒼が口をつぐんでいるということは、どうあっても口に出す気がないということなのだ。

 その答えが、この繭の中身なのだとしたら・・・・。

 深く考えるほど、全てのことがスッキリとした形で、一つの真実へと繋がっていく。
 私は蒼の優しさに、息が止まるほどの苦しさを覚えた。

**************************

 温かな湯に沈められる感覚に、私は身を捩った。

 「海神・・・・起きて。」
 「・・・うん。」

 頭上から包み込むように降ってくる蒼の甘い声に、私は薄く目を開いた。

 「複製を作るのは、化身と違って精神力を異常なほど使う。君は今回、大分疲れているはずだ。無理はしないで。このまま眠ってしまっていいよ。・・・傍にいるから。」
 「・・・うん。」

 泥のような睡魔に襲われながら、それでも蒼に自分から触れたくて、私は力の入らない腕を彼のうなじに絡め、首をのけぞらせて唇を重ねた。

 滝口から吐き出される温かな湯の音と、薄く立ち上る湯気が、弛緩した意識をさらに朦朧とさせていく。

 今にも眠りに陥ってしまいそうな私に合わせてくれているのか、蒼はいつものように激しく口づけたりせず、ただ穏やかに受けている。

 強烈な睡魔に引きずり込まれそうになりながら、私は力なく蒼の胸に身を預けると、そこにピタリと耳をつけ、彼の鼓動を聴いた。

 規則的に響く力強い音に、心地よく耳を傾けていると、蒼が静かに口を開いた。

 「ねぇ・・・。一つ、聞いてもいい?」
 「・・・・うん。」
 「君はさっき、なぜボクに・・・あんな嘘を?」

 私は蒼の問いかけに、まどろみの中で手探りするように、答えを探した。
 蒼が言っているのは、私が最初に果ててしまった時の事だろう。

 あの時の私は、繭に納められているものの真実を知り、気が狂いそうな程、蒼に飢えていた・・・・。 

 「なぜ、だろう。・・・・不安・・・だったのかもしれない・・・。一人と、言われたのが・・・。・・・もう・・・・離さない・・・で欲し・・・く・・て」

 自分の口から紡ぎ出される言葉の意味を理解している間もないほどの、重い眠りにのしかかられ、無理矢理意識を沈められていく中、私はきつく抱きしめてくる蒼を、満ち足りた幸せの中、遠く感じていた・・・・・。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

処理中です...