双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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黄色の報復

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 海神の頬を打ち据えて愉悦に浸る黄色の配下に、ボクは思わず本気で殺気をぶつけそうになった。
 ギリギリのところで理性を保ったボクは、腹の奥に重く深く、燃え盛る怒りを飲み込んだ。

 「手も足も出せないくせに・・・・双凶の蒼。貴様、たいした大物ぶりだなぁ。立場が理解できないのか。・・・馬鹿め。」

 奴は空いている方の手で、海神の顎を掴み強引に引き寄せると、舌なめずりをしながらグッと顔を近づけた。

 「それにしても、お前・・・本当に綺麗な顔をしてるな。吸い込まれそうだ・・・。お前なら男でもかまわない。抱いてやる。」

 海神は何も言わず、ただ目の前の男を冷たく睨んでいる。

 「忠告だ・・・・・。死にたくなければ、今すぐにやめた方がいい。」
 「くはははっ・・・負け犬の遠吠えってやつか。そこで吠えてろ。」

 ボクの忠告を無視したそいつが海神の唇に向けて伸ばした長い舌は、結局彼に触れることはできなかった。
 そいつの口から生えていたはずの舌が、いつの間にかスッパリとひきちぎられ足元でのたうちまわっていたからだ。

 奴の口から飛び散る血が、海神の衣をまだらに染めた。

 「おい・・・・。海神を汚すな。」
 「だまれ。」

 ボクが上げた不満の声に、通路の暗がりから現れた黄色の妖鬼が地鳴りのような低い声で答えた。

 黄色の奴は、ずっしりとした巨体を揺らし、舌を切り落とされもがいている配下の前にくると、そいつの頭を蜜柑でも掴むように軽々と持ち上げ、力を込めた。
 手足を痙攣させもがくそいつの手から、ジャラリと重い音を立て海神を繋ぐ鎖が落ちる。

 「誰がこいつに触れていいと言った。」

 黄色は一瞬でそいつの頭を握りつぶした。
 指の間から飛び散った肉片が辺りにはりつき、血しぶきが海神の滑らかな頬にわずかに跳ねた。

 黄色の奴は、ダラリと力の抜け落ちた遺骸を壁にむけて放り投げると、足元に落ちているそいつの舌を踏みにじった。

 「汚いなぁ・・・・。海神を汚すなって言ったのに。」

 「黙れ。囚われの身でデカい口をたたくな。」

 「ボクの口がデカイって?品のない君の口と同じにするなよ。配下の手綱ひとつまともに握っておけない、馬鹿とさ・・・・。」

 「言っていろ。そんなにこいつを汚されるのが我慢できないか・・・・。どこまでその減らず口がたたけるか、試してやる。」

 海神の鎖を手に取り、別の配下にボクを連れてこいと命じると、黄色の奴は転移した。

 配下に連れられボクが転移した先は、豪奢な寝室だった。
 黄色の配下の妖鬼はボクを連れてくると、そのまますぐに退室した。

 黄色は巨大な寝台に海神を乱暴に放り投げると、ボクの目の前でのしかかるように彼を組み敷き、衣を引き裂いた。

 ボクはすぐさま黄色の奴を引き裂いてやりたいという、激しく渦巻く怒りを抑えながら睨め付けた。
 
 「おい。ふざけるのはそこまでにしておけよ。殺すぞ。」

 「馬鹿が。そこで黙ってみていろ。お前の前でこいつをよがり狂って死ぬまで犯してやる。」

 「できるかよ・・・・お前に。」

 黄色が首筋に顔をうずめると、海神は辛そうに美しい顔を歪めた。
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