双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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蒼の葛藤

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 半年前の記憶に想いを馳せながら、ボクは寝台に横たわらせた海神を見つめた。
 湯上りの海神の肌はまだほんのりとしっとりしていて、ボクは肌の感触を確かめるように、首筋の呪印をなぞった。

 いつもなら瞬き程の我慢すらせず、即座に海神を抱いてしまうボクだが、半年前の出来事を思いだしたことで、出会ってから今この時までに重ねた日々が脳裏を巡り、柄にもなく感傷的になっていた。

 ボクは未だ海神に伝えずにいることが2つある。

 2千年前のことだ・・・・・。
 1つは・・・・組紐の本当の送り主が、白妙ではなくボクであること。
 そして、もう1つは。
 ボクが・・・・海神の兄ともいえる大切な神妖を喰った、仇なのだということ。

 その事実を伝えずに、海神の傍らに自分がい続けることは、彼の誠実さをこれ以上にないほど残酷に裏切っているのだと・・・そんな、ボクらしくない罪悪感が心をさいなむ。

 胸を塞ぐようなその苦しさは常にボクの隣にあったが、少し考えれば子供でもわかることで、ボクが何も伝えなければ、海神は変わらず心穏やかでいられるのだ。

 ボクは妖鬼だ。
 元々の存在が悪なのに・・・悪行を拒んでどうする。 
 考えてみれば、全てはボクの自業自得なんだ。

 ボクはそう素直に受け止め、真実を独りひそかに胸にしまいこんだ。

 海神の隣に寄り添うように身体を横たえ肘をついたボクは、雪のように白い滑らかなその頬を手のひらで包み込み、ぼんやりしたまま何度も指を滑らせていた。

 どのくらいそうしていたのだろうか。
 海神が微かに眉を寄せ、ボクの手に自分の手を重ねてきた。
 
 「どうした・・・。」
 「ごめん。少し考え事をしてただけだよ。半年前を思い出していた。」
 「・・・・・同じだ。私も同じことを思っていた。」

 不安そうに揺れていた海神の瞳がほっとしたように緩み、華やかな笑みに変わった。
 ボクは鼓動を高鳴らせながら、ふいに目に入った海神の組紐にそっと手をかけた。

 「そういえば・・・君、どうして組紐を下げていることにしたんだ?以前は繭に入れてしまっていたんだろう。」

 ボクが何気なく問いかけると、海神は眉をひそめた。

 「わからないんだ・・・私にも。蒼がかけてくれた時から、不思議と今まで以上に愛おしく思えてしまって。・・・・・すまない。あまりにも無神経が過ぎたようだ。」

 そう言ってすかさず組紐を外そうとする海神の手首を掴み、ボクはそっと止めた。

 「必要ないよ。君から託されたものを、ボクが君に託したんだ。君が嫌じゃなければ、ボクからもらったと思って、つけておいて。」
 「・・・いいの・・・か?」

 海神はしばらくボクの瞳を見つめてから、組紐を掴んでいた手を緩めた。

 「お前から贈られた物・・・か。そう思うと殊更ことさらに嬉しく感じるものだな。・・・・・ありがとう、蒼。」

 なんてことだ。
 こんなに幸せそうな顔をするなんて。
 こんなことなら、海神に一つくらい何かを贈っておくべきだった。

 ボクは今度こそ我慢できず、海神を腕に抱いた。

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