双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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消えた穢れ堕ち

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 祈りの間を出た直後、ボクたちはみずはに出くわした。

 痺れを切らして、海神わだつみを呼びに出向いて来たのだろう。
 みずはは、海神の腰に回されたボクの手を見ると、慌てて視線をそらし見なかったふりをした。

 「海神。穢れ堕ちが跡形もなく消えてしまった。気配を探ったがみつからない。とにかく、地下牢へ・・・・。」
 「わかった。」

 みずはに返事をし、ボクを連れて当たり前のように転移しようとした海神に、ボクは驚いて声をかけた。

 「転移していいのかい?さっきは歩いて行ったじゃないか。」

 ボクの問いかけに、海神は「しまった」といいう風に視線をそらした。
 みずはは束の間首をかしげていたが、何かに気づいたようにハッとすると、知らないふりを決め込んだらしく素知らぬ顔をしてそっぽを向いている。

 その反応で、ボクはようやく一つの真実に思い至った。

 「海神。わざと歩いてたのか・・・・・?」

 ボクの問いかけに、海神はそっぽを向いたまま気まずそうに浅くうなずいた。

 「まさか・・・・君・・・ボクを待って?」

 ボクは海神をその場できつく抱きしめた。

 みずははいよいよ目のやり場に困り、顔を桃色に染めている。
 海神はボクをどけるようなことはせず、抱きしめられたまま無言で地下牢へと転移した。

 地下牢に移動した海神は、ひそかに眉間に皺をよせ目を伏せた。
 みるみるうちに、顔が青ざめていく。
 ボクは海神の髪をなで、頭を自分のうなじに抱き寄せた。

 この場所は、海神にとって忌まわしい記憶を持つ場所になってしまっているんだ。

 ボクは海神の顎に手をやり、上を向かせ口づけた。
 海神の頬にかかる黒く艶やかな横髪を耳にかけ、驚いてボクを見つめている彼の耳に唇を寄せる。

 「怖がるな。君が悪い夢を見た時は、何度でもボクが消してやるから。」
 「蒼・・・・・。」

 海神の手に指を絡めると、指先が氷のように冷たい。
 ボクは海神の濡れた瞳に、瞼の上からそっと唇を這わせてから、首筋の呪印へ口づけた。
 そこからほんのわずかな気を送りこみ、海神の緊張を解いてやる。
 繋がれた指先に、温もりが戻り始めた。

 「大丈夫。望まれなければ・・・ボクは君から、離れたりしない。」

 海神は切ない瞳でボクを見上げ、ほんの一瞬ボクの胸に顔をうずめると身体を離した。
 まだ完全に不安がぬぐえていないせいか、手だけは上衣の影でそっとボクの手を握ったままだ。

 配下の神妖を連れ、部屋の反対側の何もない場所を確認するフリをしているみずはにむかい、海神は声をかけた。
 
 「みずは。仔細を・・・・。」
 「あ、ああ。・・・まず、最初に異変に気付いたのは・・・・」

 突然声をかけられたみずはは、声を上ずらせ慌てて状況の説明を始めた。

 「つまり、駆けつけた時にはすでに地下牢の中はもぬけの殻だったというわけか。」
 「・・・・十中八九、ショクの仕業だろうね。・・・ボクのミスだ。あいつを手の届く位置に置いてしまったからな。恐らく、苦し紛れに穢れ堕ちを喰ったんだろう。」
 「ショクとは・・・?一体、ここで何があった?」

 みずはの言葉に、海神がビクリと身体を震わせる。
 ボクは繋がれたままの海神の指先を握りしめた。

 「ショクっていうのは趣味の悪い妖鬼の名さ。穢れ堕ちの中に潜んで入り込んだんだ。トロイの木馬だね。海神に害を為したから、ボクが殺した・・・と思ったんだけど。穢れ落ちの死体を喰って逃げ延びたんだろう。逃がして悪かった。」
 「・・・・お前は、何も悪くはない。」

 ボクの言葉に、海神が口を開いた。

 「あれが妖鬼であることに、私がすぐに気づくべきだったのだ。・・・すまない。」
 「馬鹿だな・・・君が謝る事なんて、何一つないのに。」

 そう言って頭をなでてやると、海神は眉間に皺をよせ目を伏せた。

 「とにかく、あの手のクズが大人しくしていられるとは思えない。穢れ堕ちの件といい・・・一体なにが目的なのか、調べる必要があるだろうね。」

 ボクの言葉に、2人は真剣な表情でうなずいた。

 
 
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