双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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伝えきれない

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 海神わだつみを腕に抱き、温もりにまどろみながら、ボクは穏やかな寝息を立てるその美しい顔を見つめていた。
 
 首にかけてやった組紐が目に入り、ボクは再びたまらない気持ちに襲われる。
 胸の奥で弾けそうなほど膨らんだ気持ちのやり場にとまどい、ボクは腕の中の海神をきつく抱きしめた。
 海神は、少し身じろぎゆっくりと目を開くと、ボクの背に腕を回し抱き返してくる。

 「ごめん・・・起こした。」

 ボクの言葉に、海神は小さく首を横に振り顎を上げると、ついばむように口づけてきた。
 短く数度ボクの唇を柔らかくんでから、海神の薄く形の良い唇がゆっくり離れると、ボクはため息をついた。

 「・・・なんてことだ・・・・・。ボクは、相当な損をしたよ。」
 「なぜ・・・・?」
 「もっとずっと前に、君に会いにくればよかった。君は、本当に最高だ。・・・・・過去の自分をぶん殴ってやりたい。」

 ボクの言葉を聞いた海神は、珍しく少し声を出して笑うと、ふと、何かに気づいたように眉間に皺を寄せた。

 「どうしたの?」
 「ここは、神殿で祈りの場だ・・・・。罰当たりなことを、してしまったのではないだろうか。」

 海神の言葉に、今度はボクが小さく噴き出してしまった。

 「平気だろう。海の神である君に祈りを捧げるのに、これ以上の場所はないじゃないか。誰が君に、罰を与えられる。」

 その言葉に、少し考えてから微笑むと、海神はボクの手に長くしなやかな指を絡めた。

 「蒼・・・・。」
 「うん。」
 「蒼と生きていきたい・・・最期の時まで。」
 「うん。」
 「お前と離れては、私は生きていけない。」
 「うん。」

 急に黙りこくってしまった海神を不思議に思い顔を覗くと、首にかけられた組紐に気づいた海神が、こぼれおちそうな程目に涙を浮かべている。
 ボクは驚いて海神の目をぬぐった。

 「なんで泣く。」
 「・・・・わからない。」
 「海神・・・・ボクは・・・」

 ボクが口を開いたその時、海神が眉間にしわをよせ眼光を鋭くした。

 念話か・・・・・・。

 すかさず海神の呪印に指をあてると、みずはの声が頭に響いてきた。
 
 『海神。聞こえているか?』
 「ああ・・・どうした。」
 『今どこにいる。穢れ堕ちが姿を消したんだ。すぐ来れるか?』
 「祈りの間だ。すぐに向かう。」

 海神は念話を切ると、素早く起き上がった。
 ボクは浄化の術で一通り辺りを綺麗にし、敷物と薄い掛け布団を繭に納めた。

 素早く衣を羽織り、一瞬で腰ひもを締めると、ちょうど用意が終わったらしい海神に近寄り、少し乱れている髪を直してやってから、滑らかで雪のように白い頬に小さく口づけた。

 「完璧だ。行こうか。」
 「ああ。」

 それだけで薄く肌を染め、すねたように視線をそらして返事をする海神に、ボクは思わず微笑む。

 海神は、怒っているわけじゃない。
 照れたり、自分を律している時にこんな風になって、怒っているように見えてしまうんだ。
 きっと、今までもそうだった。
 ボクが気づいてやれなかっただけで・・・・。
 
 ボクはくすぐられるような想いに胸を熱くしながら、海神の腰を抱き、祈りの間を後にした。
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