双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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誓い

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 気をやったまま意識を失ってしまった海神わだつみに手をかざし、身体を綺麗にしてやりながら、ボクは不思議な気持ちに戸惑っていた。

 妖鬼として生まれたボクが、こんな気持ちを持つ日がくるとは思わなかったんだ。

 契りを結ぶことは、これまでのボクには深い意味はなかった。
 気の向くままにただ戯れに犯し欲望を吐き出すか、交わった相手を壊すだけの遊び事・・・・それ以上でもそれ以下でもない。

 ボクは再び淫呪の術を縛ると、海神わだつみを包み込むように抱きしめ、その温もりを感じながら目を閉じた。

 どのくらいそうしていただろうか。
 ふいに、ボクの頬を海神の温かく滑らかな手のひらが包んだ。

 「・・・ありがとう。」
 「・・・ボクは、お礼を言われるようなことはしていない。君を無理矢理に犯しただけだよ。」
 「違う。・・・・わかっているんだ。・・・・私を、全てから救ってくれた。初めから・・・・・仕置きなど、するつもりもなかったのだろう。私の気持ちの落としどころをつくるために、泥を被ったんだ・・・。お前は・・・・・私をどこまでも甘やかすのだな。」

 海神は、切なく揺れる眼差しで静かにそう言って、ボクの髪を白く長い指ですいた。

 ボクは小さく息を吐き、海神から視線を逸らした。
 バレてたなんて、カッコ悪すぎるだろう・・・・・・。
 これじゃぁボクは、ただ海神を欲望のままに抱いただけの男じゃないか。

 「勘違いするな。ボクはそんなにできた奴じゃないよ。頭に来ていたから、君に罰を与えた。それだけだ。」

 そんなボクの心を知ってか知らずか、海神はその言葉に少しだけ微笑むと、ためらいがちにボクの唇に指で触れた。

 「どうしたらいいのだろう。私は、お前と共に生きたいと・・・・・狂いそうなほど、強く願っているのだ。」

 前触れもなく紡ぎ出されたその熱い言葉に、ボクは海神をきつく抱きしめた。

 壊れるまで海神を抱きつくしてしまいたいという強烈な衝動が、どうしようもないほど沸きあがってくる。
 生涯抱くつもりはなかったはずなのに、一度その温もりと心地よさを知ってしまった今では、歯止めがききそうもなかった。

 「海神。頼むからボクをあまり煽らないで・・・・・。ボクはいつだって、君が欲しくてたまらないんだ。このままではいつか本当に、君を壊してしまうよ。」

 海神はボクの背に手を回し、強く抱きしめながら、甘えるように胸に顔をうずめてきた。
 再び顔を上げ、ボクの唇にそっと口づけた海神は、真剣な瞳で一言ずつ丁寧に言葉を紡ぎ出した。

 「お前が望むのなら、その全てを私は受け入れる。お前にならば例え何をされても本望だ。例え、全てのものが蒼から離れていったとしても、私がお前に背を向けることは絶対にない。・・・・・誓って言う。」

 ボクは、張り裂けそうな想いで、海神の澄んだ瞳を言葉もなくみつめた。

 「そうはいっても、私はもう完全な神妖ではなくなってしまったようだ。自分の生き方がわからない。・・・・困ったものだな。」

 「気づいてたのか。」

 それは、自分にも言えることだった。
 魂の形は修復され、表向きは妖鬼としての形に戻ってはいるが、一番深いところが全く別の形をなしていた。
 力も、海神と交わる前に比べると格段に上がっている。
 恐らく、今のボクの強さは、黒の妖鬼とさほど変わらないまでに上がっているだろう。

 海神にしても同じことが言えた。
 もともと海神と言えば、神妖の中で3本の指に入る強さを誇る者として知られている。
 現在はそこから頭1つ分くらいは抜け出てしまったかもしれない。
 このまま他の者の前に出れば、その変化に気づかれ騒ぎになるかもしれなかった。

 「じゃあ、こうしよう。」

 ボクは海神の首筋にある呪印に口づけた。
 海神の身体がピクリとはねる。
 ボクは呪印を使い海神の増えすぎた力を抑え、隠した。

 「本当はボクに名前を与えて欲しいんだけど・・・・・。とりあえず今は時間が惜しい。妙な騒ぎになる前に、先に手を打ちたい。」

 「・・・・・?」

 「今までと変わらずに見えるよう君に術をかけた。これで君は今まで通り神妖の海神としてすごせる。ボクと同格以上の神妖や妖鬼でない限り、この術は見破れない。・・・・・そうだな。せっかくだから確認がてら、少し挨拶にいってみようか。」

 「挨拶?」

 「彼呼迷軌ひよめきへさ。」
 
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