双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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海神>再会 2 ※

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 あおがぶつけてくる慕情に、私は狂うほど乱れた。

 声を抑える余裕などあるはずもなかった・・・・・。
 私の口から声が漏れるたび、彼はさらにむさぼるような激しい口づけを交わしてくる。
 
 熱く高鳴った欲望の塊が、苦しいほど張り詰めていくのに、彼がそこにふれることはなかった。

 切なくこみあげてくる高みに、私は欲望を吐き出せないまま、どこまでも、何度も、ただただ上り詰めさせられる。

 身体をのけぞらせ、強烈な官能の波に飲み込まれた私が激しく震える度、この美しい青年は怖いほど真っ直ぐな瞳で見つめ、間も空けず再び絶頂へといざない始める。

 私は、激しく求められる幸福感と、甘い熱を吐き出させてもらえないまま、絶え間なく押し寄せ続ける絶頂に、どうしてよいかわからず、涙を流し全てを受け止め続けることしかできないでいた。

 どれほどの時が過ぎたのだろう。
 終わらない快感に気を失いかけた時、ようやく青年は身体を離した。

 「言ったはずだ。ボクをあおるなと。」

 冷たく凍るような目で見つめられ、私の熱の塊が激しく脈打つ。

 蒼は、私の衣をはだけさせると、全身に強く、優しく、口づけを始めた。

 本来の姿より大分幼い彼の姿は、私よりも若く見えるのだろうな。

 ふと、そんなふうに想い、自分より年若い彼の手と唇に全身を愛撫され、こんなにも乱れていることに、私は背徳感を覚えた。
 体中を寒気にも似た激しい熱がザワリと駆け巡って行く。

 「ぁ・・・・ゃ・・・・。」

 それと同時に、今まで触れられることのなかった熱い欲望の塊に、彼の白く細い指が触れた。

 「はっ・・・・ぁあっ・・・やめっ・・・もう・・・」

 私の口から漏れ出た声に、彼はクスリと笑って顔を上げた。

 羞恥で顔が熱くなる。
 だが、もう限界なのだ。
 彼の艶やかな髪が肌に触れるだけで、どうしようもなく漏れてしまう吐息を止めることさえ、私は既にできなくなっていた。

 「君はとてもいい声で鳴くね。・・・・たまらないな。本当に・・・・・・抱いてしまいたいよ。」
 
 再び口づけを落としてくる彼の言葉に、どうしようもないほど熱く深い吐息がもれた。

 気づくと、私はこの青年の艶やかな形の良い唇を求め、自ら手を伸ばし、引き寄せていた。
 重ねた唇の柔らかさに、たまらない愛おしさが押し寄せ、涙が再びこぼれた。

 なぜ私は、出会ったばかりのこの妖鬼に、これほど恋焦がれているのだろう。
 なぜ、泣きたくなるほど愛おしくてたまらなく想ってしまうのだろう・・・・。
 
 だが、そんな私の疑問は次の瞬間、儚く散ってしまった。

 蒼は、瞳を紅く光らせた。
 我を失い、むさぼるように口づけながら、何度も何度も私の名を呼んでくる。

 呪印へ落とす口づけも、紡がれる言葉も、その一つ一つが私を簡単に高みへと昇りつめさせていった。
 口づけが・・・声が・・・凄まじい官能の激流を、無理矢理撃ち込むように私の中に流し込んでくる。

 私は、今の今まで彼が力の加減をしていたのだと知った。
 欲望を吐き出せないまま迎える強烈な絶頂を、絶えることなく幾度も幾度も与えられ続ける。

 あぁ・・・・・壊れていく。

 私の意識はとても遠く、小さくなっていった。
 蒼と肌を重ねたい。
 彼と一つになりたいという想いだけが、浮かされたように頭の中で巡っている。

 「海神。ボクは君のそばにいるためにここに来た。ボクのものになれ。ボクは既に君のものなんだ。」

 意識のかなたで、彼の甘やかな声がそう言っているような気がした。

 私はとても幸せな夢を見ているのだ。
 叶うはずのない、誰にも告げてはならない夢を・・・・・。

 こんなにも焦がれてしまった青年から求められることに、心が満たされ涙がこぼれた。
 私は、小さくうなずいた。

 「海神。ボクを感じていろ。それ以外は求めない。お前は・・・ボクのものだ。」

 再び耳にこだまする鋭く甘い言葉と、夢の中と思えないような全身を痺れさせるような快感に、私は身体をのけぞらせた。

 「海神・・・・・いけ。」

 淡く溶けるような視界の中、蒼の瞳が紅く煌めいた。
 私は身体を何度も激しく震わせ・・・彼の温かい腕の中で、甘い熱をとめどなく吐き出した。


************************************

 
 「海神・・・・・。」

 名を呼ばれている。

 遠く朧げに霞む意識の向こうで、私は、蒼に口づけて欲しくて、顎を少し上げ薄く口を開いた。
 それなのに彼は、優しく2度口づけただけで、すぐに唇を離してしまった。

 私は途切れてしまった温もりをたまらなく寂しく想った。

 離れないで・・・・。
 切なく想っていると、首筋に愛おしい温もりがそっと降ってきた

 私の首筋に顔をうずめた彼の口から、絞り出すような甘く苦し気な声がこぼれた。

 「ねぇ・・・・・。抱いてもいいかい・・・・・。君を抱きたくて・・・どうかしてしまいそうなんだ・・・・・。」

 私は身体が震えるのを感じた。

 まだ・・・・夢を見ているのだろうか。
 求めていた言葉に、心が喜びで震える。

 このまま壊れてもいい・・・・・今すぐ、蒼に抱かれたい。
 彼と一つになりたくて・・・彼のものになりたくて、気が狂いそうだった。
  
 痺れて力の入らない身体が、これが夢ではなく現実なのだと伝えてくれる。
 嬉しくて涙があふれ頬を伝った。 
 抱いて欲しいと伝えたくて口を開こうとすると、蒼が静かに顔を上げた。

 「冗談だよ・・・・・。泣くほど嫌がらなくてもいいだろう?・・・・・君は本当に、困った人だね。」

 蒼は、そう言って私を独り残し、そのまま静かに部屋を後にしてしまった。

 冗談・・・だったのか・・・・・。

 私は、上手く力の入らない身体をゆっくりと丸めた。

 やはり、彼はどこまでいっても妖鬼。
 彼の慕情は、私たちの思うものとは違うのだろう。
 刹那的で、移ろいやすく、淡く儚い。
 伝わってくる想いは偽りでなくとも、恐らくそれはその場限りのものなのだ。
 
 私の想いだけが、取り残されてしまった・・・・・。

 私は、寝台に顔をうずめむせび泣いた。

 忘れなければ・・・・・。
 消さなければ・・・・・。
 あってはならない、報われることのない想いなのだから。

 そう強く思えば思うほど、かすかに残る彼の匂いが、壊れそうなほど胸をしめつけてきた。
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