双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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海神>再会 1 ※

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 私は、神殿の祈りの間で、先日みずはと訪れた深海を思い出し、眉間にしわをよせた。

 何かがおかしい・・・・・・。

 けがちとなった"エビ"という名の神妖じんようの支配を受け、子供たちを襲ったというサメは、長く生きた知恵のある非常に強力な生き物だった。
 大した力もない、あのエビが使役できるとは到底思えない。
 明らかにサメの方が、生物として格上なのだ。

 私はため息をつき、額に手を当てた。
 その時。
 神殿の空気がゆらぐのを感じた。

 「侵入者か・・・・・。」

 そう思った瞬間。
 私の心臓はドキリと音を立てた。

 はやる気持ちを抑えながら、すぐさま気配をよむ。

 侵入者は特に変わったところのない、ただの神妖だった。
 魂の輝きも、力の強さもありきたりなものでしかない。

 門番は海の神妖の中でも選りすぐりの者たちだ。
 自分が行くまでもなく追い払われることだろう。

 そう考えながら、私は自分が酷く気落ちしていることに気づいてしまった。

 私は一体、何を考えている・・・・・。
 何を期待した・・・・・。
 あの男であるはずがない。
 あれとのえにしは既に切れたのだ。

 締め付けられるような胸の痛みと、こんな想いを抱いてしまう浅ましい自分自身への嫌悪感で、心が壊れてしまいそうなほどきしんだ。

 突然。
 何者かの気配を背後に感じ、私は振り向いた。

 祭壇のあるこの祈りの間は、この世界で最も強固な結界が張られている。
 どれほど強力な神妖であっても、私の許可なく入れる者はいない。
 それなのに・・・・・・。

 長く艶やかな黒髪に、幼さの残る美しい顔をした長身の青年の姿がそこにあった。
 姿かたちも・・・魂の色も・・・何もかもが違っているのに、その青年が一体誰なのか・・・・・・私はすぐに分かってしまった。

 心臓が早鐘を打ち、涙がにじむ。
 彼に会いたくてこんなにも焦がれていたのだと思い知らされ、私は自分自身に驚いた。

 目に力をこめ涙をこらえながら彼を見つめる。
 声が・・・・震えてしまいそうだ。
 
 「お前は誰だ。どうやってここまで入ってきた。」

 私があえてそう問うと、彼は手に持っていた何かを乱暴に投げ捨てた。
 得意げな表情で、私の目の前に立ちはだかる。
 私は、見下ろしてくる彼の黒い瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えた。

 あお・・・・・。

 心の中で、その名を切なく抱きしめる。

 彼は無言のまま私の襟元を開き、首筋の呪印をさらけ出した。
 不敵な笑みを浮かべそこへ口づけを落としてくる彼を、私は頭を傾け、静かに受け入れる。

 強烈な快感と甘い痺れが全身を駆け巡り、同時に蒼の声が私の心に響いてきた。

 『やっと、会えた。』

 「まさか・・・お前。」

 この美しい妖鬼は、ただ私に会うためだけに、ここへ来たというのだろうか・・・・・。

 腰が砕け、座り込みそうになった私を、蒼の細く力強い腕が抱き止めた。
 溢れそうになる涙をこらえ、私は蒼に問う。

 この男の口から真実を聞きたかった。
 
 「貴様・・・・・。なぜここへ。」
 「驚いた?君のここにある呪印。これのお陰で、ボクはいつでも自由に君の所へ来れちゃうんだよねー。」
 「そんなことは聞いていない。貴様はもう、私に用はないはずだ。」
 「ん?・・・・君、ずいぶんおかしなことを聞くね。ボクが君に会いに来るのに、なぜ用が必要なんだ?」

 逃れようのない喜びに絡みつかれ、心が震える。

 呪印の力など、私にはもう必要がなかった・・・。

 触れられただけで、気が狂いそうなほど身体が熱くなる。
 見つめられるだけで、涙が溢れそうになる。

 それなのに、呪印の力で無理矢理高みへ押し上げてくる蒼のことが憎くて・・・。
 私は彼に恨み言を言った。 

 「・・・私に・・・かまうな。」

 蒼は眩しそうに目を細め、フッと短く息を吐いて笑った。
 今まで以上に激しく呪印に口づけると、一瞬のうちに強烈な快感を流し込んでくる。

 「っ・・・・・んっ・・・。」

 もう、立っていることなど出来なかった。
 全身が跳ねあがりそうな快感を必死で逃がそうと、私は首をのけぞらせた。

 そんな私ののど元に彼はむさぼるように口づける。
 
 そこに感じる彼の体温があまりにも鮮烈で・・・・・・。
 たまらない愛おしさから、私は思わず蒼にしがみついた。

 「本当に・・・君はボクをあおるのが上手いね。わざとやっているの?君のことが恋しくて会いに来た男に、そんなことを言うなんて。」
 「っ・・・・・や…もう・・・・」

 伝わらない想いがもどかしくて、私は眉間に皺をよせた。
 
 「おお怖っ・・・・・。そんな目で睨まないでよ。随分嫌われたものだね。」

 蒼は私を抱き上げ、寝室へと移動した。
 私を寝台に降ろし、そのまま再び激しく口づけてくる。

 彼の身体の熱さに自分を見失いそうだった。
 怖ろしさから押しやろうとした私の手は、彼の両手でしとねへと押さえつけられる。

 蒼・・・・・・。

 全身で彼を感じながら、私は心の中で彼の名を呼んだ。
 気持ちの昂ぶりからあふれ出る涙をぬぐう事さえできないまま、私は、うつくしい妖鬼に全てを委ねた。
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