双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

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出会い※ ☆挿絵は蒼です。

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 ・・・・どこまでも海!

 何も考えずに転移した先は、見事なまでに海しかない場所だった。
 海で丸く囲まれた世界で、ボクはポツンと1人浮かんでいた。

 でもまぁ、久々だしここも静かで悪くはない。

 そんな風にも思ったんだけど、出てくる時間帯を間違えた。
 ボクは日の光ってやつが好きじゃない。
 なのに、今は太陽が真上の昼まっさかりの時間だった。

 もう気もすんだし、冥府ヘ戻ろうかな・・・・なんて、早々に僕が考えた丁度その時。

 ヒュッ!

 ボクの鼻先を鋭い刃がかすめた。

 当然、何かがくることは分かってたんだけど。
 いきなり殺しにかかるとはね。

 ボクは刃の持ち主に向き合った。

 「やぁ。随分なごあいさつじゃないか。・・・ひどいなぁ。」

 そう言って苦笑いする。

 ヒュンッ!

 相手は無言のまま、再びボクに切りかかってきた。
 長く艶やかな黒髪が海風に流れ、顔がよく見えないが、細身とはいえしなやかな腕の筋肉や、僕の鼻の位置まである身長を考えればかなり長身だ。
 衣の種類を見ても、こいつは男だろうな。

 「おいおい。口がきけないのかい。それとも言葉が話せないとか?」

 ボクの言葉には一切反応せず、その男は何度も切りかかってきた。
 刃が顔面を切りつけてきた時、ボクは片手で刀を止めた。
 白い和服のような品のある服をみにつけたその男は、刀を握りしめたまま力を緩めようとはしなかった。

 「しつこいな。ボクを怒らせたいのかい?」

 ボクは気の長い質じゃない。
 もう殺してしまおうと思いながら、冷たい視線を彼に向けた。
 その時、一陣の風が吹き抜け、突然風が止んだ・・・・・。
 顔を隠していた長い髪が流れ、表情があらわになったその人物と目が合う。

 その瞬間。
 鼓動が大きく跳ね上がり、全身を巡る血液が信じられないほどに熱くなった。

 「お前・・・・・殺すには惜しいな。」

 切れ長の瞳。
 すっきりと通った鼻筋。
 薄く形の良い唇。
 陶器のように滑らかな白い肌。
 鍛錬された刀さばきからは老齢さが感じられたが、年のころは若く見える。
 青年と呼ぶのがふさわしい。

 もっとも、ボクたち人外のものに、年や性別はそれほど重要な意味をもってはいないんだけど。

 ボクは、掴んでいた刀を取り上げ、遠くへ放り捨てると、青年の腰に手を回し強引に抱き寄せた。

 久々に味わう高揚とした気分に、身体が甘く疼く。

 「何をする!」

 青年は目を見開き、ボクの顔を凝視した。

 「なんだ。しゃべれるじゃないか。・・・でも・・・今はいらない。」

 ボクは青年の首筋に口づけた。

 「やめ・・・ろ。」

 ボクの力はとても強力だ。
 この青年が何者かは知らないが、抗う術など与えない。

 青年の息が甘やかに上がっていくのを感じながら、ボクはそっと唇を離した。
 そこには赤黒い呪詛の印が刻まれていた。

 「これで、君はボクから逃げられない。」

 「お前。私に何をした……。」

 青年は美しい眉間に皺をよせ、それでも凛とした眼差しのまま、ボクを見た。

 「呪印を贈ったのさ。この呪印があれば、君の位置や今なにしてるかとか、ボクが望めばなんでもわかっちゃうんだよね。他にも色々できるけど・・・・・。」

 青年は、ボクが話す度に吐息を甘く、高くしていく。

 もはや浮いているのもやっとの様子で、ボクの腕に身体を半分預けている。

 「つらいでしょー。ボクの声を聴くたびに、君に甘い刺激が強烈に贈られるようにしたんだ。」
 「外道が・・・・死ね。」
 「無理無理ー。だってボク、強いもん。それよりさ、君、名前なんていうの?」
 「・・・・・。」
 「強情だね。でも残念・・・・・嫌いじゃないんだ。」

 ボクはそれから青年に「名を教えてくれ」と囁き続けた。

 その度に、青年は身もだえ、息を荒く高くしていく。
 触れ合う身体から、青年が堪えられず興奮してしまっているのが伝わってきた。
 
 ボクはあえて名前を聞くのをやめると、ただ声を聴かせるためだけに、たわいのない言葉を、彼に降らせた。

 とりとめのない言葉を流し続け、決して「名を教えろ」とは言わない。
 名を言わせては、勿体ない。
 彼がよがる姿をもっと楽しみたいんだ。

 青年はもう浮いていることすらできず、完全にボクに身体を委ねていた。
 足も腰も力が抜け、甘く溶けた瞳がボクをぼんやりと見つめる。

 ボクは青年の頬から耳に手を伸ばし、そっとなぞった。

 「っ・・・・・!」

 青年は切ない表情で、高く甘く声をたなびかせると、身体をビクリと何度も硬直させた。

 彼の熱くなった身体を包み込むように、ボクは強く抱きしめた。
 青年の細くしなやかな腕が、ボクの背中にきつくすがりつき、爪を立てる。

 彼の身体から力が抜けると、ボクは抱きしめていた身体を離した。
 彼の顎を上げ、その薄く艶やかな唇に深く口づける。

 彼の口の中は柔らかく、滑らかで温かかった。
 ボクは夢中で甘美な時をむさぼった。


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