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運命の人に会えるお茶会
悪役令嬢による会心の一撃?
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かくしてお茶会の日は訪れた。
メアリーの手によってリメイクされたドレスに身を包み、馬車を出してもらってマクレイン公爵邸へと向かう。
お茶会の作法はちゃんと復習した。
あとは当たり障りない話題を選び、殿下とも適切な距離を取れば乗り切れるはず。
だが、侍女たちが噂していたあるジンクスが頭からこびりついて離れない。
――マクレイン邸のお茶会に参加したら、運命の人に会える。
これを聞いた時、非常に嫌な予感がした。
クラリッサはこのジンクスを利用し、私と参加者の誰かが親密な仲になればいいと思っているのではないか。わざわざ招待状に明記してあった以上、それが殿下である可能性は高い。
単にカーライル様と私を分断したいだけなら他の有象無象でもいいだろうが、もしも殿下がクラリッサに横恋慕しているという予想が的中していたら、私と彼をまとめて自分の前から排除できると考えているのかもしれない。
……もちろん、これらがすべて私の邪推というオチもありえる。
しかし、私の主観では、彼女は女子のヒエラルキートップに君臨する、いい子ちゃんに見えるのに狡猾で打算的なタイプ。それ自体が悪いというのではなく、私とは徹底的に相性がよくないというだけだ。
ああ、嫌だ。転生ヒロインなんてロクなもんじゃない。
この二週間で何度ついたか分からないため息で憂鬱を吐き出すと、ゆっくりと馬車がスピードを落としていく。
門構えだけで子爵邸とは比べ物にならないくらい豪奢な雰囲気を窓から眺め、ここが地獄の入り口じゃありませんようにと祈りながら馬車を降りる。
「ご招待に預かりました、プリエラ・ホワイトリーです」
出迎えてくれた公爵邸の侍女に招待状を見せると、彼女は小さく微笑んで「こちらです」と案内してくれた。
てっきりサロンに案内されるのだとばかり思っていたが、どうやらガーデンパーティーだったようで、芳しい花の香りが漂う中庭へと誘われる。
美しい花々にすさんだ心を癒してもらいつつ、メイン会場である四阿へ向かい――そこで出迎えられたクラリッサに、私はいきなりきついジャブを食らった。
クラリッサは、萌黄色のドレスを着ていた。
舞踏会の時も街歩きの時も水色のドレスだったから、すっかり油断していた。
「ご覧になって。あのご令嬢、恐れ多くもクラリッサ様と同じ色を……」
「子爵の分際で何様のつもりですの?」
「淑女の風上にも置けませんわね」
四阿で一足先にくつろいでいたらしい他の令嬢たちが、嫌悪感を隠そうともせず、聞えよがしの悪口を叩く。陰湿な女のいじめだが、マナーに反したのはこちらだから何も言い返せない。
一人だけその輪に加わらず静観している令嬢もいたが、真っ白な羽飾りのついた扇で顔のほとんどを隠していたので、こちらに否定的な態度なのは一目瞭然だ。
そして、クラリッサは彼女らを窘めることなく私の元へやってきた。
「ようこそ、プリエラさん。まぁ、とても素敵なドレスですわね。おばあ様から譲られたものでしょうか? 古いものを大事にされることはよいことです。それにその萌黄色、あなたにぴったりですわ。こうして並んでみると、わたくしが霞んでしまうほどよくお似合いです」
流行遅れのドレスをさりげなくディスりながら、大げさなほど色に関して賞賛するクラリッサ。
褒めるふりをしてさらに私の立場を悪くするとは……えげつない。
開始一分でHPが半分くらいごっそり削られた気分だが、ここで逃げるわけにはいかない。ぐっと耐えてカーテシーをする。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。それと、とんだご無礼を働いてしてしまい、大変申し訳ありませんでした。皆様にもご不快な思いをさせてしまったようですし、今回はご挨拶だけで失礼させて――」
「まあ、そんなこと言わないでくださいまし。プリエラさんは長く社交界から離れていらしたんですから、お作法に不慣れでも仕方ないことです。わたくしは気にしておりませんから、どうぞゆっくりなさっていって。皆様もよろしいですわよね?」
参加者たちを振り返ってクラリッサが問うと、文句を垂れていた令嬢たちはお互い顔を見合わせつつ「クラリッサ様のご随意のままに」と返答した。羽扇を持っていた令嬢は返答しなかったが、沈黙は是と捉えられたようで、クラリッサは私を席に案内する。
つんけんどんな令嬢たちと順番に挨拶をかわし、最後に羽扇の令嬢の番となった。
彼女がそっと羽扇を畳むと、鮮やかな赤毛と吊り気味の琥珀色の瞳を持つ、可愛らしくも勝ち気そうな少女の顔が現れた。
グレージュのドレスは地味こそ色合いだが、繊細な花柄の刺繍が施してあったり、袖が透け感のあるオーガンジーでできていたりと、デザイン面でかなりスタイリッシュだ。
「お初にお目にかかります。私はセシリア・モーリス。モーリス辺境伯の娘です。どうぞセシリアとお呼びください、プリエラ様」
「セシリアさんはフロリアン殿下の婚約者なの」
クラリッサの無邪気な補足に、私は背筋に悪寒が走った。
殿下の婚約者……それすなわち、ザマァ警戒人物その二!
もしかしてクラリッサから私と殿下のでっち上げエピソードを吹き込まれ、「身の程をわきまえなさい」と牽制しに来たんではなかろうか。殿下の姿が見当たらないのも、きっと彼女が他の女にうつつを抜かしたと誤解し急遽欠席させた、と考えれば納得がいく。
いや、それより男性が一人もいないということから、殿下が参加するというのはただのエサで、最初からセシリア様が来る予定だった、とする方が自然か。
……いずれにしても、五体満足で帰れるのか、私……?
緊張のあまり全然味のしないお菓子とお茶をいただきながら、令嬢たちからチクチク刺さる嫌味や小言を聞き流し、早く帰りたいとばかり考えていると、ふと思い出したような素振りでクラリッサ様が口を開く。
「……そういえば、プリエラさん。オージュ家からは何も音沙汰はありませんの?」
「オージュ家……え、ええ。特に何も」
思いがけないところで舞踏会でのひと悶着を蒸し返され、飲んでいた紅茶がむせそうになったがかろうじて堪え、平静を保って返事をする。
「まあ、オージュ侯爵家でも無礼を働いたんですの?」
「やはり、クラリッサ様とお付き合いするには不適格ですわ」
舞踏会に不参加だったのか、あの一件を知らないらしい令嬢が口々に責める。
無駄な言葉を徹底的にそぎ落とし、嘘ではないけど誤解を多大に招く発言を投下してくるクラリッサの手腕は、さながら政治家の問題発言だけ切り取って、さもこいつは悪人であると誇大報道するマスコミの手口にそっくりだ。
何を言っても言い訳だし、謝るのもおかしいし、黙って嵐が通り過ぎるのを待っていると、セシリア様がパシンと扇を打ち令嬢たちの声を遮った。
「皆様、誤解なさらないで。私も直接見たわけではないのですが、殿下がおっしゃるにはロックス様が働いた狼藉に対し、毅然とした態度でご注意なさっただけですわ。それをご覧になった殿下は大変感心しておられましたし、私もお話を伺って素晴らしいご令嬢だと思いました」
未来の王太子夫妻がそろって私の味方だと分かると、他の令嬢たちは口をつぐんだ。
これみよがしな手のひら返しをしなかったのは、多分現行でセシリア様より家格の高い令嬢だったからだろう。殿下の婚約者とはいえ、まだ彼女は辺境伯令嬢でしかない。
セシリア様が私を擁護した裏が気になるが、これ以上この話題で突かれることがないとほっとした……のも束の間。
「あら。それだけ殿下の覚えがよく、セシリアさんとも仲良くなれそうなのだとしたら、殿下はプリエラさんを側妃へとお考えなのではありませんか?」
「そっ……ゴホッ!」
今度こそお茶が気管に入り、むせてしまう。
乙女ゲームの世界という先入観にとらわれ、婚約破棄だとかザマァだとかばかり考えていたが、普通に考えれば国王であれば側妃を娶ることが可能だ。セシリア様がどれだけ拒絶しようと、制度的に合法である以上異を唱えることは無理だ。
無論それは殿下と私がいい仲になる、という前提での話であり、個人的に殿下にも側妃の座にも一切興味はないが……クラリッサの意味深な発言を聞き、周りは私を『殿下を誑かし側妃に収まろうとするあくどい女』というレッ
テルを張ったに違いない。
だが、令嬢たちが一様に私を冷たい目で見る中、セシリア様はむせる私の背を撫で、猫のような目でクラリッサを射貫く。
「……クラリッサ様、おふざけが過ぎますわ。それ以上の発言は、殿下への侮辱ととらせていただきます」
「まあ、そんなつもりではなかったのよ。ただ、あの時のお二人はまるで運命に導かれた恋人同士のように見えたので、恋のキューピッドたるわたくしの本能がうずいてしまっただけなの。誤解させてしまったなら、申し訳なく思うわ」
セシリア様の鋭い眼光とクラリッサの妖艶な流し目が、四阿のテーブルをはさんで火花を散らす。
ああ、どうしてこんなことになってるんだろう。
あの時、黙って爵位剥奪されてればよかったんだろうか。
悲劇のヒロインぶっている場合ではないのは分かっているが、この場を収める術を私は知らない。できることならこのまま脱兎のごとく逃げたいが、重苦しい空気のせいで身動きが取れない。
やばい、胃に穴が開くかも……と思わず遠い目になりかけた時、
「おや、お取込み中だったかな?」
侍女に案内され、フロリアン殿下とカーライル様が現れた。
メアリーの手によってリメイクされたドレスに身を包み、馬車を出してもらってマクレイン公爵邸へと向かう。
お茶会の作法はちゃんと復習した。
あとは当たり障りない話題を選び、殿下とも適切な距離を取れば乗り切れるはず。
だが、侍女たちが噂していたあるジンクスが頭からこびりついて離れない。
――マクレイン邸のお茶会に参加したら、運命の人に会える。
これを聞いた時、非常に嫌な予感がした。
クラリッサはこのジンクスを利用し、私と参加者の誰かが親密な仲になればいいと思っているのではないか。わざわざ招待状に明記してあった以上、それが殿下である可能性は高い。
単にカーライル様と私を分断したいだけなら他の有象無象でもいいだろうが、もしも殿下がクラリッサに横恋慕しているという予想が的中していたら、私と彼をまとめて自分の前から排除できると考えているのかもしれない。
……もちろん、これらがすべて私の邪推というオチもありえる。
しかし、私の主観では、彼女は女子のヒエラルキートップに君臨する、いい子ちゃんに見えるのに狡猾で打算的なタイプ。それ自体が悪いというのではなく、私とは徹底的に相性がよくないというだけだ。
ああ、嫌だ。転生ヒロインなんてロクなもんじゃない。
この二週間で何度ついたか分からないため息で憂鬱を吐き出すと、ゆっくりと馬車がスピードを落としていく。
門構えだけで子爵邸とは比べ物にならないくらい豪奢な雰囲気を窓から眺め、ここが地獄の入り口じゃありませんようにと祈りながら馬車を降りる。
「ご招待に預かりました、プリエラ・ホワイトリーです」
出迎えてくれた公爵邸の侍女に招待状を見せると、彼女は小さく微笑んで「こちらです」と案内してくれた。
てっきりサロンに案内されるのだとばかり思っていたが、どうやらガーデンパーティーだったようで、芳しい花の香りが漂う中庭へと誘われる。
美しい花々にすさんだ心を癒してもらいつつ、メイン会場である四阿へ向かい――そこで出迎えられたクラリッサに、私はいきなりきついジャブを食らった。
クラリッサは、萌黄色のドレスを着ていた。
舞踏会の時も街歩きの時も水色のドレスだったから、すっかり油断していた。
「ご覧になって。あのご令嬢、恐れ多くもクラリッサ様と同じ色を……」
「子爵の分際で何様のつもりですの?」
「淑女の風上にも置けませんわね」
四阿で一足先にくつろいでいたらしい他の令嬢たちが、嫌悪感を隠そうともせず、聞えよがしの悪口を叩く。陰湿な女のいじめだが、マナーに反したのはこちらだから何も言い返せない。
一人だけその輪に加わらず静観している令嬢もいたが、真っ白な羽飾りのついた扇で顔のほとんどを隠していたので、こちらに否定的な態度なのは一目瞭然だ。
そして、クラリッサは彼女らを窘めることなく私の元へやってきた。
「ようこそ、プリエラさん。まぁ、とても素敵なドレスですわね。おばあ様から譲られたものでしょうか? 古いものを大事にされることはよいことです。それにその萌黄色、あなたにぴったりですわ。こうして並んでみると、わたくしが霞んでしまうほどよくお似合いです」
流行遅れのドレスをさりげなくディスりながら、大げさなほど色に関して賞賛するクラリッサ。
褒めるふりをしてさらに私の立場を悪くするとは……えげつない。
開始一分でHPが半分くらいごっそり削られた気分だが、ここで逃げるわけにはいかない。ぐっと耐えてカーテシーをする。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。それと、とんだご無礼を働いてしてしまい、大変申し訳ありませんでした。皆様にもご不快な思いをさせてしまったようですし、今回はご挨拶だけで失礼させて――」
「まあ、そんなこと言わないでくださいまし。プリエラさんは長く社交界から離れていらしたんですから、お作法に不慣れでも仕方ないことです。わたくしは気にしておりませんから、どうぞゆっくりなさっていって。皆様もよろしいですわよね?」
参加者たちを振り返ってクラリッサが問うと、文句を垂れていた令嬢たちはお互い顔を見合わせつつ「クラリッサ様のご随意のままに」と返答した。羽扇を持っていた令嬢は返答しなかったが、沈黙は是と捉えられたようで、クラリッサは私を席に案内する。
つんけんどんな令嬢たちと順番に挨拶をかわし、最後に羽扇の令嬢の番となった。
彼女がそっと羽扇を畳むと、鮮やかな赤毛と吊り気味の琥珀色の瞳を持つ、可愛らしくも勝ち気そうな少女の顔が現れた。
グレージュのドレスは地味こそ色合いだが、繊細な花柄の刺繍が施してあったり、袖が透け感のあるオーガンジーでできていたりと、デザイン面でかなりスタイリッシュだ。
「お初にお目にかかります。私はセシリア・モーリス。モーリス辺境伯の娘です。どうぞセシリアとお呼びください、プリエラ様」
「セシリアさんはフロリアン殿下の婚約者なの」
クラリッサの無邪気な補足に、私は背筋に悪寒が走った。
殿下の婚約者……それすなわち、ザマァ警戒人物その二!
もしかしてクラリッサから私と殿下のでっち上げエピソードを吹き込まれ、「身の程をわきまえなさい」と牽制しに来たんではなかろうか。殿下の姿が見当たらないのも、きっと彼女が他の女にうつつを抜かしたと誤解し急遽欠席させた、と考えれば納得がいく。
いや、それより男性が一人もいないということから、殿下が参加するというのはただのエサで、最初からセシリア様が来る予定だった、とする方が自然か。
……いずれにしても、五体満足で帰れるのか、私……?
緊張のあまり全然味のしないお菓子とお茶をいただきながら、令嬢たちからチクチク刺さる嫌味や小言を聞き流し、早く帰りたいとばかり考えていると、ふと思い出したような素振りでクラリッサ様が口を開く。
「……そういえば、プリエラさん。オージュ家からは何も音沙汰はありませんの?」
「オージュ家……え、ええ。特に何も」
思いがけないところで舞踏会でのひと悶着を蒸し返され、飲んでいた紅茶がむせそうになったがかろうじて堪え、平静を保って返事をする。
「まあ、オージュ侯爵家でも無礼を働いたんですの?」
「やはり、クラリッサ様とお付き合いするには不適格ですわ」
舞踏会に不参加だったのか、あの一件を知らないらしい令嬢が口々に責める。
無駄な言葉を徹底的にそぎ落とし、嘘ではないけど誤解を多大に招く発言を投下してくるクラリッサの手腕は、さながら政治家の問題発言だけ切り取って、さもこいつは悪人であると誇大報道するマスコミの手口にそっくりだ。
何を言っても言い訳だし、謝るのもおかしいし、黙って嵐が通り過ぎるのを待っていると、セシリア様がパシンと扇を打ち令嬢たちの声を遮った。
「皆様、誤解なさらないで。私も直接見たわけではないのですが、殿下がおっしゃるにはロックス様が働いた狼藉に対し、毅然とした態度でご注意なさっただけですわ。それをご覧になった殿下は大変感心しておられましたし、私もお話を伺って素晴らしいご令嬢だと思いました」
未来の王太子夫妻がそろって私の味方だと分かると、他の令嬢たちは口をつぐんだ。
これみよがしな手のひら返しをしなかったのは、多分現行でセシリア様より家格の高い令嬢だったからだろう。殿下の婚約者とはいえ、まだ彼女は辺境伯令嬢でしかない。
セシリア様が私を擁護した裏が気になるが、これ以上この話題で突かれることがないとほっとした……のも束の間。
「あら。それだけ殿下の覚えがよく、セシリアさんとも仲良くなれそうなのだとしたら、殿下はプリエラさんを側妃へとお考えなのではありませんか?」
「そっ……ゴホッ!」
今度こそお茶が気管に入り、むせてしまう。
乙女ゲームの世界という先入観にとらわれ、婚約破棄だとかザマァだとかばかり考えていたが、普通に考えれば国王であれば側妃を娶ることが可能だ。セシリア様がどれだけ拒絶しようと、制度的に合法である以上異を唱えることは無理だ。
無論それは殿下と私がいい仲になる、という前提での話であり、個人的に殿下にも側妃の座にも一切興味はないが……クラリッサの意味深な発言を聞き、周りは私を『殿下を誑かし側妃に収まろうとするあくどい女』というレッ
テルを張ったに違いない。
だが、令嬢たちが一様に私を冷たい目で見る中、セシリア様はむせる私の背を撫で、猫のような目でクラリッサを射貫く。
「……クラリッサ様、おふざけが過ぎますわ。それ以上の発言は、殿下への侮辱ととらせていただきます」
「まあ、そんなつもりではなかったのよ。ただ、あの時のお二人はまるで運命に導かれた恋人同士のように見えたので、恋のキューピッドたるわたくしの本能がうずいてしまっただけなの。誤解させてしまったなら、申し訳なく思うわ」
セシリア様の鋭い眼光とクラリッサの妖艶な流し目が、四阿のテーブルをはさんで火花を散らす。
ああ、どうしてこんなことになってるんだろう。
あの時、黙って爵位剥奪されてればよかったんだろうか。
悲劇のヒロインぶっている場合ではないのは分かっているが、この場を収める術を私は知らない。できることならこのまま脱兎のごとく逃げたいが、重苦しい空気のせいで身動きが取れない。
やばい、胃に穴が開くかも……と思わず遠い目になりかけた時、
「おや、お取込み中だったかな?」
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