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第六部 ざまぁ編

差し入れと熱血指導①

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「あ、心配せんでもウチはなんも怒ってへんし、皆さんの舞台にケチつける気は毛頭ありません。むしろどんな劇になるか、興味津々なくらいですわ。せやから今日は劇場の偉いさんに無理言うて、皆さんのお稽古を見学させてもらおう思いまして。いきなり押しかけたお詫びに、今度ウチの会社が出す商品を差し入れさせてもらいます」

 ジゼルは雷の一つ落とすことなく、和やかなテンションのままそう語ると、後ろに控えていた護衛たちに目配せして、大きく薄っぺらな木箱をいくつも持ってこさせる。

「こ、これは……?」
「こちらは回転焼き言いまして、ベイルードでは毎日完売の人気おやつですわ。ささ、遠慮せんとどーぞ」

 中に入っているのは、ブサネコの焼き印が入った回転焼き。
 従来からある甘藷味とカボチャ味、それから王都限定で売り出す予定のペッパーポテト味の三種類があり、甘いものが苦手な人には優先的にペッパー味を振舞ってもらった。
 役者だけではなく、道具係や衣装係やその他雑用っぽい者も全員である。
 ジゼルにからすれば「公演期間中はどうぞご贔屓に」という商魂はあっても悪意はないが、もらった側からすれば「泥饅頭で攻めてきたか!?」と恐れ戦く状況である。

 しかし、公爵令嬢の勧めでなおかつ屈強で強面な男たちから手渡されれば、受け取らないという選択肢はないし、無論食べないという選択肢もない。
 皆それぞれ引きつった顔を突き合わせつつ、毒杯をあおる悲劇の主人公の気持ちで各々回転焼きを口にすると。

「あれ、うまい……?」
「本当だ……パッと見地味だけど、すげぇうまいわ」
「んー、疲れた時に甘いモンって染みるよぁ……」

「分かる、分かる。てか、甘いもの食べるのって、すっごい久しぶりじゃない?」
「だよね! どこもお菓子が値上がりしてて、あたしらみたいな下っ端じゃ手が出ないもんねぇ……」
「腹持ちがよさそうだし手は汚れないし、舞台の合間に食う軽食にもってこいだな」

「このコショウが効いてるヤツもうまいぞ。ただ、酒が欲しくなっていけねぇ……!」
「菓子でもパンでも食うモンなんでも酒の肴にする奴が、偉そうなこと言ってんじゃねぇよ」

 ひと口目は恐る恐るだったのに、泥どころか予想外に美味しかったことがアクセルになり、全員瞬く間に完食してしまった。
 正確な人数が分からず多めに持ってきたため、出た余りはあとでジャンケン大会でもやって分配してもらうことにする。

「お嬢様って、とりあえず胃袋を掴む戦法がお好きですよね。どうせ賄賂代わりに贈るなら、中に金貨でも入れればよかったのでは? 悪役っぽくていいじゃありませんか」
「アホか。硬貨には人体に有害な金属も混じっとるし、そもそも雑菌の温床やで。うっかり食あたりになったら、どないするんや。会社の信用問題に関わるやんか」
「そっちの心配ですか」
「食中毒なめんなよ」

 現代よりはるかに衛生環境が悪い分、民衆のおなかも強いのだが、出ないとは限らないのが食中毒。
 一度出たら最後、一生その不祥事はついて回ることになり、最悪廃業に追い込まれてしまう。
 単なる風評被害だけならまだしも、被害者へのお見舞いや補償もしないといけないし、万が一にも死者が出たら一巻の終わりだ。 
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