上 下
104 / 217
第六部 ざまぁ編

ブサ猫令嬢、モデルになる!?①

しおりを挟む
 手紙には以前トーマと観に行った歌劇を演じた、パージェス・アクターズの新作について書かれていた。
『ハッピー・ロイヤルウエディング』と題されたそれは、今冬公演を開始する恋愛劇で……なんと、エントール王家
直々に命じて作らせた、アーメンガートとミリアルドの恋の軌跡を描いたもの。
 そしてそこに、ジゼルをモデルにした悪役令嬢が登場するらしい。

 もちろん現物のように、おおらかで気前のいい大阪のオバチャンではなく、悪役令嬢らしい傍若無人で傲岸不遜なお嬢様だという。
 原作ゲームを意識したキャラ設定なのか、単なる恋愛モノのテンプレなのかは不明だが、あくまでモデルなので名前は違うし、担当する役者も主演経験もある実力派の美人女優のようで、ビジュアル的にはジゼルだとは分からない。
 しかし彼女の台詞は全編大阪弁っぽい訛りになっており、一発でモデルがバレる仕様になっているらしい。

 普通ならいくらお芝居とはいえ、実在の公爵令嬢をモデルにしているばかりか、その存在を大いに歪め貶める形で表現するなど不敬以外の何物でもない。
 劇団丸ごと潰されてもおかしくないが、それを『王家ご公認』という免罪符を掲げてクリアしているのだという。権力の無駄遣いとはまさにことのことだ。

 まさか王都視察の手ごたえが悪かった腹いせかと勘繰ったが、脚本を書いて公演に持ち込むまで最低でも半年はかかる。
 しかも演じるのはエントールで屈指の著名な劇団で、無理やりスケジュールを空けさせたとしても、一年以上前に計画されていたことだろう。
 さらに貴族の多くが領地に戻る冬に初公演とは、完全に市井に向けたジゼルのネガティブキャンペーンである。

 今回のことが原因とは考えられないタイミングだが、あちらとしてはうまい具合にカウンターパンチを食らわせた気分に違いない。

「他人に嫉妬している暇があれば、己の研鑽に励む方が建設的だと思いますけどねぇ」

 至極正論を述べながら手紙を卓上に置き、ティーポッドのお茶を注ぐと甘酸っぱい香りが広がる。
 ドライフルーツで風味をつけているのだろう。煮出したあとはヨーグルトと和えてもらって、余すことなくいただこうと思いながらカップに口をつけた。

「それで、どうするんです?」
「どうもこうも、ウチは表現の自由を奪うつもりはないで。そもそも、王家の圧力がかかっとるならウチらに公演を差し止める権利はないし、どのみち静観するしかないやろ。せやけど一つ気になることがあるんや……」

「やはり、イメージダウンに伴い取引の中止されることですか?」
「あー、それもまあ気にはなるっちゃぁなるけど、お芝居程度でそっぽ向くような人らと手が切れるんやったら、逆にラッキーやろ。あとあと寝首かかれんとも限らんしな。それよりもっと重要なんは――どんだけウチの独特の訛りが再現されとるかや」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。