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第六部 ざまぁ編
グロリアからの手紙②
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「ジゼル様、ジゼル様! 大変ですわ!」
「うひゃあ!」
バンッっと音を立てて扉が開いたのに驚いて瓶が手から滑り、床に転がって中身がポロポロとこぼれ落ちる。
すぐさま拾い上げるテッドの横をすり抜け、入ってきたのはロゼッタだった。
根がド庶民のジゼルとは違い、骨の髄まで淑女教育の染みついているはずの彼女が、ノックもなしに血相を変えて駆け込んでくるなどただ事ではない。
「ど、どないしたんロゼッタ?」
「そ、それが、あの……!」
かなり動揺しているのか言葉が口から出てこないロゼッタは、震える手で握りしめていた手紙をジゼルに渡す。
まさか彼女の家族に何かあったのだろうかと不安を覚えながら、床に崩れそうな彼女を支えながらすぐそこのソファーに座らせ、差し出された手紙に視線を落とす。
「え……レーリア様が倒れた……?」
差出人はロゼッタの母グロリアのようで、昨日の昼過ぎにレーリアが突然熱を出して床に臥せていると書かれていた。
レーリアの主治医曰く、以前患った大病の後遺症が悪化したところに、季節の変わり目に罹りやすい風邪を併発したせいだろうという見立てだ。
きちんと薬を服用し、安静にしていれば命に別状はないとのことだが、年齢的に体力の回復が遅いので当面は寝たきりの生活に逆戻りし……最悪の場合、一生病床で過ごすことになるかもしれない、とのことだ。
せっかく温泉療法でわずかでも健康を取り戻したというのに、また不自由な体になってしまうとは。
病も老いも人間の力ではままならないとはいえ、不幸な巡り合わせだと割り切ることはできない。
数年の付き合いのジゼルでもショックを受けるのに、子供時分から親しくしているロゼッタであれば相当堪える知らせだっただろう。さらに長く共にいたグロリアの心中はいかばかりか。
手紙に綴られている震える文字から察するだけでも心が痛む。
きっと傍仕えのマリーも、今頃は生きた心地がしないだろう。
「大丈夫やって。あのレーリア様のことや、そのうちにケロッとした顔で復活しはるって。その、不謹慎やけどあのお人、殺しても死にそうにないちゅーか、口が達者すぎてあの世からも追い返されそうなタイプやん? それに、ウチらが凹んどってもレーリア様はようならんし、取り乱したみっともない顔見られたら一生笑いモンにされるで」
紙切れ一枚ですっかり憔悴してしまったロゼッタの隣に座り、丸まった背を撫でながら努めて明るい声で励ますと、わずかに血の気の戻った顔に笑みを浮かべた。
「……ふふ、そうですわね。レーリア様のことですもの、きっとすぐになんでもないお顔を見せてくださいますわね」
「せやせや、心配するだけ損やで。こういう時こそドンと構えとかな、な?」
「確かに、その通りですわね。ふう……ジゼル様に励ましていただけて、少し落ち着きましたわ。ただその、この数年ずっとお元気でいらしたのに、急に悪化するなんて信じられなくて。母から聞く限り、特に不調を訴えていらした風でもないので、毒を盛られたのではないかと……」
「さすがに毒は飛躍しすぎやない? まあ、疑ってまう気持ちは分からんでもないけど」
「うひゃあ!」
バンッっと音を立てて扉が開いたのに驚いて瓶が手から滑り、床に転がって中身がポロポロとこぼれ落ちる。
すぐさま拾い上げるテッドの横をすり抜け、入ってきたのはロゼッタだった。
根がド庶民のジゼルとは違い、骨の髄まで淑女教育の染みついているはずの彼女が、ノックもなしに血相を変えて駆け込んでくるなどただ事ではない。
「ど、どないしたんロゼッタ?」
「そ、それが、あの……!」
かなり動揺しているのか言葉が口から出てこないロゼッタは、震える手で握りしめていた手紙をジゼルに渡す。
まさか彼女の家族に何かあったのだろうかと不安を覚えながら、床に崩れそうな彼女を支えながらすぐそこのソファーに座らせ、差し出された手紙に視線を落とす。
「え……レーリア様が倒れた……?」
差出人はロゼッタの母グロリアのようで、昨日の昼過ぎにレーリアが突然熱を出して床に臥せていると書かれていた。
レーリアの主治医曰く、以前患った大病の後遺症が悪化したところに、季節の変わり目に罹りやすい風邪を併発したせいだろうという見立てだ。
きちんと薬を服用し、安静にしていれば命に別状はないとのことだが、年齢的に体力の回復が遅いので当面は寝たきりの生活に逆戻りし……最悪の場合、一生病床で過ごすことになるかもしれない、とのことだ。
せっかく温泉療法でわずかでも健康を取り戻したというのに、また不自由な体になってしまうとは。
病も老いも人間の力ではままならないとはいえ、不幸な巡り合わせだと割り切ることはできない。
数年の付き合いのジゼルでもショックを受けるのに、子供時分から親しくしているロゼッタであれば相当堪える知らせだっただろう。さらに長く共にいたグロリアの心中はいかばかりか。
手紙に綴られている震える文字から察するだけでも心が痛む。
きっと傍仕えのマリーも、今頃は生きた心地がしないだろう。
「大丈夫やって。あのレーリア様のことや、そのうちにケロッとした顔で復活しはるって。その、不謹慎やけどあのお人、殺しても死にそうにないちゅーか、口が達者すぎてあの世からも追い返されそうなタイプやん? それに、ウチらが凹んどってもレーリア様はようならんし、取り乱したみっともない顔見られたら一生笑いモンにされるで」
紙切れ一枚ですっかり憔悴してしまったロゼッタの隣に座り、丸まった背を撫でながら努めて明るい声で励ますと、わずかに血の気の戻った顔に笑みを浮かべた。
「……ふふ、そうですわね。レーリア様のことですもの、きっとすぐになんでもないお顔を見せてくださいますわね」
「せやせや、心配するだけ損やで。こういう時こそドンと構えとかな、な?」
「確かに、その通りですわね。ふう……ジゼル様に励ましていただけて、少し落ち着きましたわ。ただその、この数年ずっとお元気でいらしたのに、急に悪化するなんて信じられなくて。母から聞く限り、特に不調を訴えていらした風でもないので、毒を盛られたのではないかと……」
「さすがに毒は飛躍しすぎやない? まあ、疑ってまう気持ちは分からんでもないけど」
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