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第六部 ざまぁ編

グロリアからの手紙①

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 冬が明けて春になった。
 幸いにもベイルードは長雨の影響を免れ、つつがなく冬を越すことができたので、去年は忙しくて実現できなかった温泉休暇を楽しみ、しっかりと英気を養って社交シーズンの幕開けに臨んだ。
 なにしろ、この春から夏にかけてゲームのシナリオ期間なのだ。

 すでにヒロインは意中の王子様と結ばれているし、シナリオに関与しようにも攻略対象とは端から疎遠なので、とっくの昔に完結しているようなものではあるが……これまで身に覚えがないのに敵視されてきた経験から、何か起こりそうな気がしてならない。

 ゲーム上のように常日頃から傍若無人な振る舞いをしているわけでもないし、多少のトラブルでは断罪イベントまで発展しないはずだが、わずかな失敗が命取りになることもある。
 足をすくわれないよう、この期間はでいつも以上に慎重にならなくては――と自戒しつつ王都のタウンハウスに腰を落ち着け、これからの予定を練ることにした。

(――んー、そろそろ王都進出計画も大詰めやし、ジェイコブさん呼んで最終調整せなアカンな。冬の間にウチとはだいぶ話は詰めたけど、こっちの社員との連携はまだまだや。都合のええ日聞かな)
 卓上に手作りカレンダーを広げて予定表を作りつつ、会社の影の支配者となりつつあるジェイコブにご都合伺いする手紙をしたためる。
 野心家は業が深いが、その分有能だ。

(あー、それにしても不便やわぁ、乙女ゲーム世界! こういう時日本やったら、リモート会議でパパッと済ませられるのに!)

 貴族の中でも上位に位置する公爵家で、平民からすれば破格に便利な暮らしをしているが、現代のハイテク機器を基準にすれば超前時代的としか言いようがない。

 とはいえ、待っていても嘆いていても他の誰かがやってくれるわけでもないし、代筆を頼む手もあるが、指示を出してやらせるより自力でやる方が早い。
 面倒臭いなぁと胸中でつぶやきつつもペンを走らせ、他にもいくつか事業関係の手紙を書き終えてグッと伸びをしていると、テッドが積み重ねた紐綴じファイルを抱えて入ってきた。

「お嬢様。これまでの帳簿のファイリング、終わりましたよ」
「ありがとさん。そこの本棚に直しといて。あ、ついでにこの手紙も出しといてくれる?」
「……人使い荒いですねぇ。別途ボーナスを請求していいですか?」
「せやから、いつも飴ちゃんあげてるやん。今日もちゃんと用意してあるで」

 本棚にファイルを仕舞いながら愚痴をこぼすテッドに、薄紙に包まれたピンクの飴玉の端を持ってピラピラ揺らすジゼル。

「子供のお遣いじゃないんですよ、まったく……あ、しかも塩プラム飴じゃないですか。ボーナスどころか罰ゲームでしょ、それ。ていうか、まだ残ってたんですか?」
「ラストワン賞やで。ありがたみ百万倍やろ」
「嫌味の間違いでしょう。遠慮します」
「うーん。なんでそこまで嫌がるんか、ウチにはよう分からんわ……」

 とことんエントール国民に嫌われている梅干し味の飴を机の上に置き、代わりにミント味の飴を瓶から出そうとした時。
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