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挿入話 市佳と真冬4

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「明日から学校かあ」
「そーだね」
 膝の上に乗った真冬ちゃんは、あまり興味がない様子で返事をした。夏休みの終わりって、やっぱりちょっと憂鬱な気分になると思うのだけど、真冬ちゃんは普段とほとんど変化がなかった。
「学校行くの、嫌じゃないの?」
「んー、別に。市佳に会えなくなる訳じゃないし」
 こういうことを平気な顔して言うもんだから、私の方も口元の綻びを抑えるのに必死だ。
「まったく、かわいいこと言ってくれちゃって」
「えへー」
 真冬ちゃんが体を後ろに倒してきて、ふわふわの髪の毛から漂う匂いが一段と濃く感じられる。脳の奥の方を痺れさせて、思考を鈍らせてしまう危険な香り。
 毎日のように体と体を触れ合わせてきたけど、まだまだ真冬ちゃんとしていないことはたくさんある。
 ちょっと早いような気もするし、今が絶好の機会であるような気もするし。
 少なくとも、真冬ちゃんが嫌がることはないだろうな、とは思う。
「真冬ちゃん、こっち向いて座って」
「ん、いーよ」
 言葉通り、真冬ちゃんは膝の上で体の向きを逆にして、私と向かい合うように膝に跨がる。
 こんなに従順な彼女とするのは、少し罪悪感もあるけれど……。
「ね、ねえ、真冬ちゃん……その、さ。私ね、真冬ちゃんと、キ、キスしたいな、なんて」
「私とちゅー? もー、仕方ないなー、市佳は」
「じゃ、じゃあ、してもいい?」
「いいよー、ほら、ちゅー」
 んー、と、小さな蕾みたいな唇が無防備に突き出される。
 目元には長い睫毛が反り返るように伸びていて、部屋の明かりが深く黒い影を落としていた。
 この整った造形に、私が泥を塗ってしまうのではないかという恐怖で、なかなか顔を近づけることができなかった。
 そのまま長い間見つめ続けていると、真冬ちゃんは一度目を開け、不機嫌そうに顔を逸らした。
「……ちゅーしたくないなら、別にいい」
「わー、待って待って、ちゃんとするからっ」
「むうー」
 彼女はぷくー、っと膨れ顔を作り、あからさまに拗ねた表情を浮かべた。そういう顔つきも愛らしいなと思ってしまったけど、流石にこれは口に出しては言えない。
「こ、今度は最後までするから……」
「ん」
 膨らんでいた頬から空気が抜け、再びキスをせがむように唇をちょいと上向ける。そのちょっとした仕草だけでもう、心臓が不規則に暴れ出す。 鼻をどっちに傾けようとか、なるべく息が掛からないようにしようとか、色々考えを巡らせはしたけど、果たして上手くいったかどうか。
「んぅっ……」
 ともかく、私は人生で初めて、大好きな人と本気のキスを交わしたのだった。
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