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勇者が魔王城にもうすぐ着くという知らせが来た。だから、魔王である父上以外の王族は避難することになった。俺も勿論避難する。今から少し離れた避難用の宮殿へ向かうところだ。

父上が見送りに来てくれた。

「カイト、リエル。元気でな…また会おう」

泣いちゃダメだ、父上に情けない姿を見せてはダメだと思えば思うほど溢れ出てくる涙が止まらない。

「うっ…ぜっ、絶対です。ひぐっ、約束ですから。また会えなかったら、ゆ…許しませんから!」

父上は強い、負けるはずがない。そう思っていても不安というのはなくならない。これで会えるのが最後かも知れないと思うと恐怖で身体の震えが止まらない。

「あぁ、約束だ」

温かい香りに包まれた。父上に抱きしめられたのだ。背中をトントンッとあやすように叩いてくれた。ぎこちなく、慣れてない感じが父上だなっと思うと自然と笑顔になれた。
家族の香りは凄く落ち着かせてくれる。リエルの香りもそうだ。アイツはよく俺を抱きしめてくる。最初は兄弟だし恥ずかしいと抵抗していたが、最近はその居心地の良さに自分から求めるようになった。

「…リエル、羨ましいからと睨むな」

「別に睨んでませんよ。…早くあんな奴倒してとっとと終わらせてくださいね。私には魔王など早すぎますから」

これは遠回しに勇者を倒してくれ、また会いたいということなのだろう。父上に対しては素直じゃないんだから。
こういうところを見るとまだまだ幼くて可愛い弟だなと思う。

それから沢山の話をした。最近鍛練を頑張ってるとか、この料理が美味しかったとか、最上級魔法が使えるようになったという話をした。
こんな時じゃなかったら、日常会話だ。
目を背けたくても、辛い現実はすぐそこまで迫ってきている。


「もうそろそろ出発しませんと…」

もうか、まだまだ話したいことがあったのに…

「では、父上。また後で話しますね」
「父上。また後ほど…」

父上はずっといつも俺たちに向けてくれる優しくて、温かい笑顔を今も変わらず向けてくれた。本当に強い人だ。俺だったら恐怖でベッドから離れられなくなると思う。

「あぁ、またな…」

再会を誓いあったところで馬車の扉が閉まっていった。パタンっという音がやけに大きく聞こえた。



「リエル、今…」

「ん?なぁに?」

「いや、何でもない」

『リエル、今の父上の顔を見たか?』と聞こうとした。だけど、最後まで父上が俺たちに隠そうとしてきたことだから言っちゃダメなことだと思った。

俺は父上のあの顔を一生忘れることはないと思う。一瞬しか見れなかったが、凄く不安で辛そうな顔をしていた。まるで死を受け入れているようだった。


酷く胸が痛い。また身体の震えがとまらなくなってしまった。

「カイト兄上、大丈夫だよ。父上は強いんだから…誰にも負けるわけがない」

まるで自分に言い聞かせているようだった。それから、俺をいつもみたいに優しく抱きしめてくれた。

だけど、その身体は震えていた。
しっかりしているように見えて、やっぱり不安な気持ちというのは簡単には拭えないのだろう。

「そうだよな。また会えるよな…約束したんだから」

俺も自分に言い聞かせて、リエルの身体を抱きしめ返した。

『また会える、絶対会える。』


俺らは宮殿に着くまで、お互いの身体を離すことはなかった。
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