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383 基準を超えるものを持つ者たち

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 そもそもぷっとんこと布袋静は、ディンクロンこと晃九郎と共に第一の被害者・田岡の救出を最終目標に据えた事件の捜査を行なっていた。ゲームをプレイし始めた理由も事件発覚後であり、ピンポイントに対象タイトルが分かっていたからとしか思えないプレイ経歴には疑問があった。
<A>
<何かね?>
 ガルドは会話を耳に入れつつ、今はアバターログインしていない黒アヒルを呼び出す。モニターだけしていたらしいAからはすぐに返事があった。
<なぜフロキリだったんだ>
<キミが居たからだと思っているがね>
<真面目に答えろ>
<真剣だがね>
 実りのない返事に内心ため息を一つ。ぷっとんはAとは正反対の、ごく客観的で有意義な答えを語り出した。
「九郎と九郎のお兄さん……晃五郎、ね。二人とも、途中までは同じ方向を向いてたのよ。計画のことを、これ以上被害が大きくならないよう計画をコントロールしましょうねぇーってところまでね」
「コントロール?」
「海外の人間に好き勝手国内を荒らされるよりは、情報や技術を提供して協力姿勢を見せた方がいいってこと。これはほぼ脅しみたいな感じだったっぽいけど」
「穏やかじゃないな」
「この辺りは省庁各所でも暗黙の了解ってやつでして……」
「基本は公安のお仕事だが、まぁ、諸外国との調整ってやつだ。スパイに入り込まれるより、出せるもん先に出して納得の上でお帰りいただく……どの国でもやってるもんさ」
「ほぇー……」
 メロが口をぽかんと開けて感嘆した。ガルドも知らないことだが、驚愕するほどではない。
 感覚が麻痺してきているのだろう。世の中が大人の都合でごた混ぜにされ、その割にうまく機能していないことを知ってしまった。この調整とやらが完璧に上手くいっていれば、とガルドはありもしないIFを考える。
 上手く調整が効いていれば、ハワイ島にイーライが私兵を送り込んでくることもなかったはずだ。そっと手を開いて、当たり前だが綺麗な色をした手のひらを確認する。赤く濡れることはないが、意味は同じだ。ガルドはまだ、あの日自分がしたことを忘れていない。
「その調整ってのは、予定通り上手くいってたのか?」
「いってたら今頃九郎はまだ霞ヶ関よ。だとしても、私たちはここでこうして不自由な目に遭ってたでしょうけど」
「なるほど。晃九郎、かわいそうにな」
「え、なになに? どういうこと?」
 マグナが一人理解したらしいが、隣でメロが身を乗り出して補足を求めた。
「その計画とやらに協力していた九郎と五郎だが、九郎だけが気づいたんだろう。いや、田岡の件が先か?」
「後よ。九郎は行き過ぎた計画への協力で人災が出る可能性に気づいて、止めようとして、始末されかけた」
「えっ!?」
「し、始末……」
「この場合の始末っていうのはね、消すって意味じゃなくて活用って意味なのよ。でも九郎は活用するに値する条件に達していなかった。だから、田岡くんが狙われた」
 ガルドは顔を上げた。
「それは、つまり……田岡さんは、晃九郎の……身代わり、だったのか?」
「そうね、そうなるわ」
 知らなかった。驚愕に顔が固まる。
「マジかよ」
「そのこと、田岡さんは知ってる?」
 夜叉彦が心配そうにぷっとんへ聞く。ガルドはそこまで考えなかったが、人間関係を大切にする夜叉彦らしい着眼点だ。
「知らないはずよ。あ、誤解が無いように補足するわ。田岡くんは何も九郎の友人だから狙われたわけじゃなくって、脳波コンが市販化される前に渡米して手術を受けてた数少ない日本人のうちの一人だからなの。九郎もなんだけど」
「田岡とディンクロンの差とはなんだ?」とマグナ。
「ううん、何かしらねぇ。フロキリが選ばれた理由がプレイヤー全体の民度なのは分かってたけど、田岡くんと九郎を比べて田岡くんが選ばれた理由は分からないわ。性格?」
「俺らに聞かれても、マトモだった頃の田岡の性格、知らないし」
「そうだった。もっとシャキッとしてたし柔和だしストレス耐性高めだし、部下には慕われ上司には可愛がられる感じ」
「……ディンクロンと比べて、どうよ」
「田岡くんの方が好かれるでしょうねぇ、人に」
「そこじゃね?」
 榎本がへらりと笑って指摘した。周囲の面々もうんうんと頷く。ガルドの脳裏では鋭い声で別の意見が飛んできた。
<その点に関しては反論があるのだがね! いいかね、計画計画と言うがねぇ、AJの頃はもっとぼんやりとしていてだねぇ……今、最優先で最大に重要視されているのはそこじゃないのでね!>
<分かってる。当時の、だ>
<コミュニケーション能力とかそんな古臭い単語を持ち出さないでもらいたいがね! うん! みずき、みずきが一番優れているのは明白だがね、そのAJが尊ばれた理由とみずきが一番な理由はイコールではないのでね!>
 何か弁明している。
<分かってる。コミュりょくは期待されてない。理解してる>
<みずき! ご、誤解だがね!>
 耳元でなおもピーチクパーチク叫んでいる黒い鳥を脳裏から強制的に締め出し、ガルドはアイテム袋から缶ビールを呼び出した。
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