Dress Circle

対比

３

「さむ……っ」

街灯がないから先の景色もよく見えない。家から少し離れた、夜の川沿いを一架は歩いた。
ここをもう少し行くと大きな自然公園に出る。地元ではかなり規模が大きく、子どもプールや小動物と触れ合える飼育小屋もある。俺も幼い頃は両親に連れられてよく行ったけど、高校生になってから行ったことは一度もなかった。

何より、夜に行くのは初めて。だから今の景色がとても不気味に思えた。
向こうの動物型の遊具はサビすぎてるし、反対側の池は子どもが落ちたら危険な気がする。あのなっがいローラー滑り台も夜にやったら怖いよな……とかどうでもいい不安ばかり覚える。
緊張してるのは確かだ。だから、ついついスマホを取り出してメッセージを送った。
現在は十九時。そろそろ仕事を終えるだろう恋人に向けて。
そして、送信完了の文字を見てポケットに仕舞った。

この公園は本当に広いから案内図の設置も多い。地図に従い経路を進む。ようやく目的地を見つけ、長い階段を上った。
ここには展望台がある。晴れた日の昼なら市街はもちろん、遠くの山々まで眺望できる。だから地元の人間からは人気のスポットだ。
上がるにつれ遠くに街の光がぽつぽつ見えたが、足元に気を払っているせいで眺める気にはなれなかった。
それでも、待ち合わせの時間には間に合ったらしい。自分を呼び出した人物の姿を視認して安堵する。

「あぁ。良かった、来てくれないかと思った」

彼は心底嬉しそうに微笑む。
自分のスマホを宙に掲げると、今度はそれを持ってる自分の指を見つめた。
何がしたいのかよく分からないけど、とても機嫌が良さそうだ。

「用って何、延岡」

何とか口を開いて問い掛けると、彼はこっちを見向きもせずに答えた。
「あれ。君付けで呼んでたのに急に呼び捨て？」
「呼んでほしいならそうするよ。でもそっちも俺のこと呼び捨てで呼んでるんでしょ？ 多分、その……朝間さんの前では」