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先に奪ったのは
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しおりを挟む少年の虚ろな瞳がこちらへ向く。
張り付くような、湿気を帯びた瞳。目が合った瞬間、思わず背筋がぞくっとした。
関わりがないからどういう性格か全然知らなかったが……。
ファイルを持つ手に力が入る。
ついさっき一架が話していた。恐らく、嫌がらせの主犯。一架を邪魔に思っている人物。
延岡祐代《のべおかゆうだい》……。
自分より一回り歳下の生徒に味わう切迫感は初めて。居心地の悪い空気に内心眉を潜めた。
「崔本~……は、俺のクラスだな。でも、君はその指輪をくれた人のことが好きなんじゃないのか?」
「いえ、そうじゃありません。俺は“好き”って意味がよく分からないから。あの人のことは好きじゃなくて…………ただ大事なんです。いなくなったらつまらないから、死んでもいいと思えるぐらい」
どうやら、こっちが思っている以上にのめり込んで……心酔してるようだ。
いや、彼をそうさせたのは……やっぱり、その想い人なんだろうか。
しかしそんな呑気な思考をしてる場合じゃなかった。次に彼が放った言葉で、一気に冷たい現実に引き戻される。
「梼原先生、崔本と付き合ってるんでしょ? 俺、先生達が話してた内容を録音した盗聴器を持ってるんですよ」
「え」
彼は無表情で淡々と告げた。
本当に?
あまりにも突拍子がない。高校生が盗聴器なんて……その朝間から手に入れたとしても、ブラフの可能性が高い。
「生徒と付き合うわけないだろ? 確かに一架とは昔馴染みだから、なにか聞き間違えたんじゃないか?」
「俺は別に、立場とか年の差とか気にしないですから隠さなくてもいいですよ。……でも崔本が、俺からあの人を奪うなら……俺も手段は選ばない。それだけお伝えしておきます」
彼はリングをポケットに仕舞い、横を通り過ぎた。
「だってそうでしょう? 先に奪ったのはそっちなんだ。何百回見返しても、俺は崔本の演技に価値があるとは思えない。あの人の方がずっとすごい……俺は一生、あの人だけのファンだ」
翻る影。足音が遠のいていく。
「……」
いつの間にか嫌な汗をかいていた。後ろを振り返り、自分の教室に戻っていく彼の後ろ姿を見送る。
ちょっと話しただけで分かる。今の延岡はかなり危険だ。一架を守らないと、大変なことが起きてしまう。そんな嫌な予感が胸を突き刺している。
早いところ手を打たないと。でもその為には、まず彼のことを詳しく調べる必要がある。
そして、その朝間という青年のことも────。
どうも、延岡の言葉が胸に引っ掛かる。
継美は誰もいなくなった廊下を睨んだ後、ひとり職員室へ向かった。
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