Dress Circle

先に奪ったのは

２０

静まりかえった夜の闇に紛れ、二人は熱い吐息を絡ませた。

「ん……っ」

淫らな糸を引き、互いの手を繋ぎ合う。これだけでも立派なセックスだ。
心を引き留めている。誰も知らない一面を目にしている。

相手をコントロールしている。

どれだけ時間が経過したのか分からないが、朝間が後ろに身を引いたとき、濃密な接触は終わった。

「朝間さんに貸してもらった盗聴器、すごい役に立ちましたよ。おかげで誰と付き合ってるのか分かりました。俺達の学校の、梼原継美っていう教師です」
「へぇ。教師なんて大胆な選択だね。普通は断ると思うけど、清いお付き合いでもしてるのかな」

朝間は腕を組み、興味深そうに頷いている。
一架に執着してるわりには悲しそうでもないし、動揺もしていない。やはり理解するには難しい人だと再認識した。

そして、延岡はひとつだけ隠しごとをした。
ここ最近、自身が一架に嫌がらせを繰り返していたこと。
延岡は朝間に一架の恋人を探るよう指示されていたが、嫌がらせは独断行動だ。朝間に心酔しているからこそ、朝間の心を奪う一架を憎んでいた。
犯人だと疑われても、確信的な証拠は何も残してない。いくらでもシラを切れる為、それについては心配していなかった。
それより一架の信用を掴むことだ。その結果次第では、彼を破滅に導くことができる。

「教師が生徒と付き合ってるなんて知られたら大問題ですよね。例え処分されなくても、先生の方が居づらくなって学校を辞めるかも。どうします？ 今度は盗撮でもしてきましょうか」

実際辞めてほしいのは梼原ではなく一架の方だが。

「んー……」

朝間は瞼を伏せ、夜空をあおいだ。それから返ってきた言葉は、少々物足りないもので。
「いや、まだ様子見かな。今までどおり一架のことを見張って、何かあったら俺に教えて？」
「え。は、はい」
引き伸ばされたことは若干の不満があった。だがそれを悟られないよう、慌てて笑顔を繕う。
彼は笑みを絶やさず、頬に触れてきた。 
「祐代は俺のこと好き？」
「はい、もちろん」
「じゃあ、好きってなに」
朝間の切れ長の眼が一層鋭くなる。その物々しさを肌で感じ、延岡は息を飲んだ。さっきまでの熱はぉこへ行ったのか、指先が冷え、悴んでいる。

「好きってなにか。君が昔俺に訊いたことだよ。俺はそれに答えたけど、忘れちゃったかな」
「す、すいません……」

すぐさま頭を下げる。
確かに、昔そんな会話を交わした気がする。だけど内容までは思い出せなかった。