Dress Circle

七賀ごふん@小説/漫画

文字の大きさ
上 下
100 / 157
先に奪ったのは

しおりを挟む



そっと手が伸び、頭を撫でられる。最初こそ後ろに引き気味だったが、次第に前のめりになった。
あんなに子ども扱いされるのが嫌いだったのに、すごく気持ちいい。
一架はゆっくり、継美の胸に寄りかかった。
「隠しててごめん。嫌がらせとか慣れてるし、むしろ仕事してた時の方が酷かったから、大丈夫かなって思って……」
「うん……まあ、確かにそうかもな。ごめんな」
触れた手は自然と繋がる。
こんなところを誰かに見られたら煙草どころの騒ぎじゃない。それでも今は、今だけは離れることはできなかった。
もし引き剥がされてしまったら、もう二度とこんな風に寄りかかれない気がする。

どこかでひっそりと息をする。ちっぽけなプライドが心に根を張っていて、無理やり引き剥がしたら怪我しそうだ。
彼に心配をかけたくないと想いと、自分で解決できるという自負がぶつかっている。
「……他に、何か変わったことはないか? 困ったこととか、気になってることとか」
「ううん。特にないよ」
継美があまりにも不安そうな顔を浮かべている為、一架は慌てて笑顔をつくった。

「もしまた嫌がらせされたらすぐに言え。もう他の先生達も知ってるし、犯人捜しじゃないけど悪化は防げるはずだ。……というより、絶対防いでみせる。俺がいるから」

強い力で手を握られる。一架は瞼を伏せた。
散り散りになる心を無理やり掻き集めて、押し込められた。それができるのは、世界中でもこの人だけ。

「ありがと、継美さん」

ここが一番欲していた自分の居場所。
明日なんて来なくていいから、ずっとこのままでいたい。そんなことを願ってしまうのは彼と離れたくないからなのか。それとも今日が終わるのが怖いから、か……。
きっと両方だ。
俺はもう、“独り”は耐えられない人間になってしまったから。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

炎のように

碧月 晶
BL
イケメン王子×無自覚美形 ~登場人物~ ○アイセ・ウル ・受け(主人公) ・オラージュ王国出身 ・16才 ・右眼:緑 左眼:碧 、黒髪  (左眼は普段から髪で隠している) ・風と水を操る能力を持つ  (常人より丈夫) ・刃物系武器全般の扱いを得意とする ※途中までほぼ偽名です。 ○ヴィント・アーヴェル ・攻め ・ヴィーチェル王国 第一王子 ・18才 ・紅眼、金髪 ・国最強剣士 ・火を操る能力を持つ ※グロテスク、暴力表現あり。 ※一話一話が短め。 ※既にBLove様でも公開中の作品です。 ※表紙絵は友人様作です(^^) ※一番最初に書いた作品なので拙い所が多々あります。 ※何年かかろうと完結はさせます。 ※いいね、コメントありがとうございます!

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】

はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。 美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

顔も知らない婚約者 海を越えて夫婦になる

永江寧々
恋愛
ある朝、ハロルド・ヘインズは祖父に呼び出されて告げられた。 「明日、お前の婚約者がここへ嫁いでくる」 生を受けて16年、婚約者がいることは一度も聞かされていなかった。 貴族の子供に婚約者がいるのはおかしな話ではない。衝撃ではあったが、一体どういう相手なのだろうと問いかけたハロルドの耳に届いたのは想像もしたくないほど最悪な言葉。 「美しい和の国の女だ」 和の国を愛してやまない祖父が決めた婚約者。 誰も逆らうことができない祖父の絶対命令に従うしかなく、ハロルドは婚約者ユズリハを迎える。 和女を婚約者にしたことがバレては笑い者になる。 和人に嫌悪するハロルドにとって人生終了のお知らせも同然。 ユズリハに感情も事情も全て正直に告白したハロルドは驚くことなくそれを受け入れ「愛し合えとまでは言われておらぬ」と笑う姿に唖然とする。 地獄の始まりだと婚約者を受け入れようとしない伯爵家次男は想い人と一緒になることを夢見ているが、自由に暮らす和の国随一の豪商の娘はそれさえも応援すると言い……

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...