Dress Circle

先に奪ったのは

４

朝のホームルームが終わってようやく気付いた。昨日机の中に置いていった筆箱がなくなっている。
いつもは家に持って帰るのに、昨日に限って学校に置いていった。しくじったな、と臍を噛む。
この前も体操服が泥で汚れていたし、どうせまた俺の美貌に嫉妬した生徒の仕業だろう。でも別にいい。筆記用具ぐらい、友人から借りれば済む話だ。

もうテストが始まる為、机の中の教科書を全て取り出す。すると一枚の紙切れが床に落ちた。何かと思って拾い上げると、

「筆箱は……四階屋上階段」

今の俺が知りたいこと。筆箱の所在を記した一文だった。
ふざけてる。嫌がらせで物を隠して、その場所を教えるメモを机の中に入れるなんて。
舌打ちして壁にかかった時計を見る。まだテストまで充分ちょっとある。大急ぎで行けば見つかるかもしれない。

けどこれも嘘かもしれないし、俺の勉強時間を奪うことが目的かもしれない。テスト開始に遅刻させようとしてる可能性がある。

ただ、これからもこういうことをネチネチやられるのは困る。
見つからなければそれでいい。パッと見てなかったら教室に戻ろうと考え、四階の屋上階段へ向かった。
屋上は封鎖されてる為、まず人は来ない。掃除もろくにされてないのか、とても埃っぽくて口元を押さえた。

やっぱりないか────。

足下に視線を落としながら、ほぼほぼ諦めていた。しかし一番上の階段までのぼった時、壁に寄せるようにして置かれた筆箱を見つけた。
青い小ぶりのペンケース。間違いなく自分のものだ。
「はぁ……」
とりあえず見つかって良かった。ホッとしたのも束の間、時間がないことに気付いて慌てて教室へ戻った。

これ自体が罠だったとも気付かずに。