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暗がりの人
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しおりを挟む土曜日、学校は休み。しかし柚はいつも通りの時間に家を出た。
今日はとても暑い。雲ひとつない青空を見て心が晴れるなんてことはなかった。照りつける太陽を恨めしく思いながら電車に乗り、いつもの駅へ。
「柚、おーはよ」
「おはようございます、柊先輩!」
改札口で待ち合わせをしていた彼は、また笑って手を振った。
今日は初めて、柊と一日遊ぶ。
制服じゃなく私服で会うのは新鮮で、少しぎこちないけど……まぁ今日ぐらい、楽しく過ごせたらいいと願った。
「よーし柚、まずカラオケ行こう」
「りょーかいです」
完全に柊先輩に連れ回される形で、彼が行きたい所をとにかく回った。
でも嫌じゃない。むしろ楽しい。これがきっと、普通の高校生の過ごし方なんだ。これが、青春。
夕方になる頃には、さすがにちょっとヘトヘトだったけど。
「喉渇いたな」
柊先輩がそう呟いたときに、日が傾いていることに気付いた。外のベンチに腰掛け、先輩からジュースを受け取る。
「柚、疲れてない?」
「いえ、大丈夫です!」
疲れてるけど、そこは笑顔で嘘をついた。
それを彼は、笑わずに指摘する。
「……いや疲れてるだろ。目が笑ってないぞ」
即バレた。
何とか口角は上げたまま保ったけど、思わず鏡を探したくなる。
よく見てんだな、とは思うけど……そのわりにはオイッて思うほど鈍いとこもあるし、この人マジで分かんねえな。
「柊先輩って良い人ですよね」
「そう? 柚も良い子じゃん」
隣合わせで、彼の眼を見る。その時に胸のあたりがチクッとした。
ああ。やっぱり、“これ”は彼のせいだ。
「……違う」
適当に受け流せば良かったのに、この時は無性に反発したかった。
「柊先輩、俺かなり悪い奴だよ」
「何。そうなの?」
「そうだよ」
どこまでも能天気な先輩の言葉にオウム返しする。膝を痛いぐらい押さえながら、鼻で笑った。
「だって俺、先輩に素を見せたことなんて一度もありませんから」
我ながら最低最悪な告白だと思ったけど、それはどうしようもない事実だ。
彼に頭から冷水をかけたみたいだ。そしてもちろん、それは俺自身にも跳ね返っている。
ジュースを飲み干して、ひとり立ち上がった。
「……すみません。ごちそうさまでした。俺、そろそろ帰りますね」
早く帰ろう。
……家に?
それとも、あの暗くて冷たい……、
「待って」
突然腕を掴まれて、後ろへよろめく。振り返ると柊先輩も立ち上がって、険しい顔でこちらを見つめていた。
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