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有名人
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しおりを挟む「一架君、おかえりなさい」
外はすっかり闇に包まれている。
明かりのついた家に入ると、響子さんが笑顔で出迎えてくれた。
「ただいまです」
「あら、どうしました? ちょっと元気ない……?」
できる限り笑顔を作ったつもりだけど、逆に暗く見えてしまったのかもしれない。彼女は困った顔を浮かべていた。
「大丈夫です! テスト前だから寝不足で。すごく眠いから、今日はもう寝ますね。ご飯は、夜中起きたら頂きます」
「そうだったの。頑張るのは良いことだけど、無理はしないでね」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
軽く頭を下げて自分の部屋に戻った。
本当は部屋着に着替えたいけど、遅い来る倦怠感から電気もつけずベッドに倒れ込む。
「……疲れた……」
今日はなんて日だ。後輩に襲われ、継美さんにはたかれて……散々すぎる。
ぎゅっと瞼を瞑って、枕を抱きしめる。
「幻滅されたかな……」
いや、今さらか。元々、継美さんの俺に対する評価は低かった。
立ち上がって眼鏡を外す。サイドテーブルの鏡に写った自分の顔は、暗さのせいか別の誰かに見えた。
男を視姦することこそ俺の生きる意味。生きる希望だ。
リスキーなことをしてるのは分かってるし、それによってバチがあたることも仕方ないと思ってる。
やめたくてもやめられない、麻薬と一緒だ。欲望を満たす行為にはそれだけの魔力があるんだ。
ひとり納得したところで、性犯罪者とはこうしてつくられていくんだろうな、と気付いた。
しかし俺は最後の一線は守る。嫌がる人間には、絶対強要しない。
あくまで合意のもと、俺のファンにのみ頼むぞ。
ということで、翌朝まだ誰も来ていない教室で継美さんを呼び出した。
「一晩悩みに悩みましたが、俺は視姦趣味はやめません。反省はしてます。俺が異常なことはちゃんと自覚してる。でもやめません。俺に視られて悦ぶ男がいる限り」
「つまり、反省してないんだな」
継美はため息と共に、教卓に頬杖をついた。
呆れ返っているらしく、指で机をとんとんと叩いた。
「そもそも、俺にとって視姦は遊びじゃない。俺を支援してくれる人達のことは本当に大切に思ってます。で、彼らは俺にプレイを視られて悦んでるから……むしろ互いに奉仕してるんですよ。ギブアンドテイクで、何にも問題ないでしょ?」
「そうだな。……強いて言うなら、道徳的なところかな……」
継美がげんなりして頬杖をつくと、ちょうど教室のドアが開いた。
「あ、一架、先生、おはよう!」
数人の生徒が元気よく手を振る。もう大半の生徒が登校してくる時間だった。彼らに気をとられた一架の顔スレスレで、継美は手を叩いた。
「とにかく! この話は保留。まぁ、即やめさせるけどな」
やっぱり納得してもらうのは無理な話か。継美さんの立場も分かるから、そこは仕方ないと思うけど。
「放課後、帰らないで残ってろよ」
そう言って、彼は教室を出て行ってしまった。
よし、放課後は即帰ろう。一架はひとり心に誓って、今後の予定を考えることにした。
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