Dress Circle

有名人

３

無邪気な笑顔が不気味に感じる。狼狽して動けない一架のベルトに手をかけながら、柚は吹き出した。
「あ、怖いですか？ 先輩って多分経験ないですもんね」
「は、はぁ！？」
怒りと羞恥で声が上擦る。余裕がないせいで、そんな安い挑発に真っ向から反応してしまった。
「だって、見ることしか興味ないんでしょ？ 自分はオナニーで充分だって言ってたし」
「……っ！！」
悲しいことに図星だから言い返せない。さらに羞恥心で打ちのめされた。
あれ、でも。

「……何でそんなこと知ってるんだよ？」

彼とは、今日が初対面のはずだ。いくらなんでもこちらの趣味を知りすぎている。カマをかけたにしてはストライク過ぎる。
「はっ。まさかストーカー？」
「あはは、まさか。俺が先輩を知ったのは最近ですよぅ」
カチャカチャという音が聞こえる。それが、ベルトが外された音だと頭の隅ではわかってるのに動けない。
いや、本当は混乱して、抵抗する気力すらわかなかっただけだ。

「驚いちゃって可愛いなぁ。男同士のセックスを見て楽しむ変態のくせに、自分が襲われると何もできないんだね」
「うぁっ！」

ズボンの中に彼の手が滑り込む。そして下着をまさぐり、乱暴に性器を引き抜かれた。
「やっ……！」
出会ったばっかの、しかも年下にとんでもない部分を見られてる。
「あは、先輩のウブなち〇こ見っけー」
「や……めろ、見るなってっ！」
慌てて自由な方の手で隠そうとするけど、それも簡単に押さえられてしまう。
「大人しくして。でないと怪我するよ」
「……っ」
彼の脅しにまんまと屈し、後ずさる。その拍子にバランスを崩し、床に座り込んでしまった。
「あーあ、そこ汚いよ。綺麗なお尻が汚れちゃうじゃん」
ひんやりした冷たい感触が伝う。気持ち悪い。
寒気と吐き気が同時にやってきて、視界が悪くなる。 

「ま、いいか。どうせこれからいっぱい汚れるしね」

ゾッとする笑みだ。
ここは今は使われてない空き教室。無造作に置かれた机と椅子を見て今さら気付いた。ここでどれだけ叫ぼうと暴れようと、誰も助けに来ない。 
「てゆーか先輩、ビンビンに勃起してんじゃん。実は触ってもらうの大好きなんじゃないの？」
「ち……ちが……んっ」
そういえばそんなこと、前にも言われたような。

誰だっけ……そうだ、あの……ムカつく……。