Dress Circle

災難

１６

継美さんのとても微妙な反応を見て、頭が真っ白になった。とても大きな声で叫んだから、恐らく廊下を歩く生徒全員に聞こえた。ような……。

やっちまった……！
今さら後悔しても遅いけど、やっぱり最悪な朝だった。失言じゃ済まない。シカンって他に何か良い意味あったっけ。言い訳に使えそうな言葉を考えなきゃ。
ぐるぐる考えていると、彼は困惑しつつも口元を押さえ、落ち着いた口調で返した。
「そ……そうか。そんなハッキリ言っちゃうとはな。大胆っていうか、度胸がある。見直したよ」
いや、そこは普通見損なうところだ。でも継美さんはいつもの調子を取り戻し、感心したように頷いてる。

落ち込んだ彼をフォローしなくちゃいけなかったから、これはこれで結果オーライか。……いや違うよな。また墓穴を掘った。何で俺は自分の首を絞めることばかりしてしまうのか。
「一架、今度は視姦の醍醐味をレポートにして書いてくれよ」
「書くかっ！ 間違えただけだよ！」
平然とＮＧワードを蒸し返す彼に一喝する。
「くくっ……大丈夫だよ。ここの純粋な奴らは視姦、って聞いてもすぐに分からないって」
こちらの心配をよそに、継美は全く気にしてない様子だ。笑いを堪え、俺の顔を覗き込む。

「つまり、健全な彼らに対してお前がどんだけマニアックなのかよく分かるだろ？」
「そんなの言われなくても知ってるよ。でも皆隠れてエロ動画観て、他人のセックスでオナるでしょ？ それと一緒だよ、違いは生で見るか、画面越しで見るか。それだけだ」
「圧倒的に画面越しなんだよなぁ……」

一架ひとりがヒートアップして、危うく口論が発展しかける。が、
「あ！ 梼原センセーおはよー」
「ん。おはよう」
ホームルームが始まる直前だった為、続々と教室前にクラスメイトが集まってきた。
皆継美を見つけると一番に駆け寄っていく為、一架は自然と彼から離れてしまった。

助かった。
本当はもっと言ってやりたいぐらいだけど、やっぱ少し大人気ないしな。後で百倍返しされるのも怖いし。
クラスメイトに囲まれて笑ってる彼を見て納得するも、少し複雑な気持ちになる。
今自分の心を鷲掴みにしてる人物は、良くも悪くも彼なのだ。