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しおりを挟む「空から降りてくるところ誰にも見られなくて良かったな。いや、いっそ見られた方が良かったか。天使の降臨ってことで大金持ちになれたかもしれないし」
中々下衆なことを言ってると思ったが、彼から離れて全身の土埃を落とした。
「貴方が帰れたのはいいけど、何で俺のことまで……。俺はこの世界に居場所はないのに」
「そんなの俺が作るから心配しない! 」
大胆過ぎる即答にたじろく。けどアケミはこちらの心配などまるで気にしない様子で微笑んだ。
「無理やり連れてきたんだ。君ひとりぐらい養ってみせるよ」
でも一ヶ月行方不明になってたな、と彼は少し青ざめて口元を押さえた。
無計画で楽観的過ぎる彼にどこから突っ込めばいいのか分からない。でも、何故だか笑ってしまった。
冥王は冥界から離れることはできないし、追っ手も亡者では送り込めないだろう。多分だけど、彼を危険な目に合わせる可能性は低い。
「今後のことはまた考えるとして。とりあえず俺の家に帰ろっか。あと、すごく今さらなこと聞いていい?」
「何ですか?」
「天使ちゃんって名前あるの?」
闇をかきわけるように、橙色の街灯が連なっている。
「ありません」
「ないの!?」
彼は露骨に驚いた。住宅街では予想外に声が響いた為、彼は慌てて口を塞ぐ。
「じゃあ俺が名前つけちゃおうかな。いい?」
「ええ」
「やった! 真白、でどう? 暫定だから、嫌になったら変えていいけど……」
「……」
多分、前に言ってた猫の名前を真似たんだろう。
「嫌じゃないです」
「ほ、ほんと?」
「だって、大切な家族だったんでしょ?」
笑いかけると、彼もつられて笑った。
小さく頷き、「もちろん」と、ひと言だけ。
右も左も分からない自分を導くように、手を引いてくれる。
こんなに心強いのは初めてだ。安心させてくれる人が傍にいることが、こんなにも幸せなことだったなんて。
「行こう、真白」
あれほど暗く騒がしかった連夜が嘘のように、小さな灯火が自分達を包んでいる。
これからはこの、狭く輝かしい景色を見ていくんだ。
「はい。……アケミさん」
俺が攫ったひとはすごいひとだったんだ。
こんなにも容易く、俺のことまで攫ってしまうんだから。
一歩前に踏み出して、踵を浮かす。油断してる彼の頬にキスすると、心配になるほど顔を赤くした。
初めてそんな顔にできたことに驚きと、少しばかりの優越感。そしてたまらない愛しさを覚える。
「初めて俺から触れられた。……こんなに嬉しい気持ちになるんですね」
はにかんで言うと、アケミも嬉しそうに微笑んだ。
頭を優しく撫でられ、「幸せにするよ」、と耳元で囁かれる。俺はとてもありきたりな感謝の言葉しか言えないけど、この夜は絶対に忘れない。時間も次元も超えて、大好きな人と歩き出せたから。
― ワープ!×ワープ! ―
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